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第18話
「お前の彼女も、ヤられながら少しは感じてたんじゃねぇの?」
唇の片端を上げて言い放てば、頭を擡げた藤井が、尖った視線を俺に向ける。心臓まで突き刺す程、鋭く。
殺意に満ちた、瞳──
「………悪ぃ、言い過ぎた」
流石に、冗談が過ぎたか……
藤井から視線を逸らし、後ろ髪をガシガシとする。
「……つーか。俺の勝手な見立てだけど。
お前の彼女、元々転校する予定だったんじゃねぇ?」
俺の言葉に、藤井の肩がピクンと跳ねる。
鋭く尖っていた瞳が、次第に柔らかさを取り戻し……支えを失ったかのように、切ない色に染まって薄く閉じる。
そんな藤井から視線を外し、辺りの木々や夜空をざっと見回しながら、再び口を開く。
「その話をする為に、誰も立ち入らねぇここに誘ったんじゃねぇの?
……別れのキスのひとつでも、期待なんかしてさ……」
なに、言ってんだよ……俺。
なんでこいつを慰めたりなんか……
言葉とは裏腹に戸惑う俺に、瞼を薄く開け、柔らかな瞳の色を見せる藤井が手を伸ばし、俺の腕に触れてくる。
何処かホッとしたように、口端を緩く持ち上げながら。
「………あり、がとう」
月の光に濡れた、大粒の涙。
綺麗だ、と……思った。
思わず手を伸ばし、折り曲げた人差し指で涙筋が残る頬に触れる。
冷たい頬に流れた涙は熱く
対極の温度を、同じ指で感じ──
「……藤井……」
解らない……
けど、愛おしくて……仕方がなかった。
向かい合う藤井の頬を手のひらで包み、そっと唇を寄せる。
サラサラと、頭上に降り注ぐ月光。
下瞼に落ちる、細くて長い……睫毛の影。
「………やめ、ろ…」
触れるか触れないかの距離で
藤井が顔を逸らす。
一瞬で変わる──空気。
「……これ以上、優しく……するな」
「……」
「俺に構うな。───今日の事は、忘れてくれ……」
掠れた声。
喉の奥から、絞り出したように。
伏せた顔を前髪がサラッと隠し
どんな表情なのか、覗えない。
──けどまだコイツは
悲劇の主人公になりきって、自ら囚われようとしている───
同じ事を、繰り返そうとしている……
沸き上がるこれは、何だ。
腹の底から……ムカムカと。ドス黒い感情がマグマのように吹き上がり、俺をイラつかせる。
抑えようにも、抑えきれない感情。
この気持ちはもう、どうにもならない……
──囚われてんのは、お前だけじゃねぇ。
……忘れられるわけ、ねぇだろ……!
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