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第7話
※※※
「行ってきます、エル」
「行ってらっしゃい兄様」
チュッと触れ合うだけの可愛いキスを交わして、ゼロは満足そうに学校に向かった。
エル、12歳…あの約束から毎日ゼロとキスをしている。
おはよう、行ってきます、おやすみのキスが習慣になっていた。
行ってきますは時間があまりないから触れるだけのキスをして見送る。
問題はおはようとおやすみのキスの方だ、正直挨拶の度が過ぎていると思う。
おはようは毎日ゼロが枕元に起こしにくる、キスで…
舌を入れてきて濃厚なキスをして、どんなに眠くても目が冴えてしまう。
起きたら超絶美形が目の前にあり、朝から心臓が止まるほど驚いた、どんなに見ていても慣れない。
そして夜のおやすみのキスも同じく濃厚で、された後すぐには寝れなくなってしまう。
義理とはいえ兄弟でこんな濃厚なキスは変ではないだろうか、ゲームのゼロはシスコンではなかった筈だ。
ゼロが学校に行ってる間何もする事がないから本を読んだり、一人で筋トレしている。
腕立て伏せ20回ですぐにバテてしまい、もっと体力付けるために走りに行こうかな。
でもあの時みたいに変な人が来たら怖いから家の周りだけ走ろう。
半袖短パンのラフな格好をして少しストレッチをしてから、扉を開けた。
太陽の光が全身を照らし、眩しくて目を細めて背伸びする。
地面を踏みしめて走り出すと、風を切る感じが気持ちよかった。
屋敷は大きいから三周くらい頑張って走り足を止めた。
頬から流れる汗を首に掛けていたタオルで拭いて少し休憩する。
もう少し頑張って走らないと体力付かないなと考えていたら、がさがさと草むらが揺れた。
野生の動物かと特に気にせず、再び走りを再開してリズムに合わせて足を動かす。
「…はぁっ、もぅ…無理だぁ…」
休憩して再開してを何度か繰り返して、もうそろそろ足が悲鳴を上げそうだったので今日はこのくらいにしようと足を止めた。
息を吐いて体を落ち着かせていたら、また草むらが揺れた。
動物の巣でもあるのだろうかと思っていたら草むらからなにかの音が聞こえていた。
草むらが激しく揺れて、ちょっと気になり「驚かせたらごめんなさい」と小声で謝り草むらの中を覗き込んだ。
そして俺の思考は停止して目を丸くして、俺の方が驚いていた。
草むらからは俺の息遣いに合わせるように「はぁはぁ」と息を乱し、自分の下半身を擦り合わせているおじさんがいた。
こんなところで何をしているんだ、いや…聞きたくない。
見なかった事にして、その場を立ち去った…あれはきっと暑さが見せた幻覚だったのだろう。
「ただいま、エル」
「おかえりなさい兄様」
ゼロが帰ってきて、おかえりのハグをギューッとした。
俺の髪を撫でて首元に鼻を近付けてにおいを嗅いでいた。
くすぐったくて小さく笑うとゼロは「風呂入ったのか?」と聞いてきた。
今日は運動で汗を沢山掻いたから風呂でさっぱりしていた。
それを伝えるとゼロは微妙な顔をして俺を見ていた。
そういえばいつもゼロと一緒に入っていたから一人で入るのは初めてだった。
もしかしたらゼロ、俺一人で入るのが心配…とか?もうそろそろ一人で入ってもいいと思うんだけど…
「運動したから汗くさくて…」
「また筋トレか、そのままでいいのに」
ゼロはため息を吐きながら、俺の頬の感触を確かめながら微笑んだ。
こうしてだんだんゼロと一緒にしてきた事をしなくなり、大人になって行くのかなとゼロの去っていく背中を眺めながら寂しくなった。
食事を終わらせ、歯磨きもすませて後はベッドに入って寝るだけになった。
まだちょっと寝るのが早くて、ベッドで横になりながら本を読んでいた。
するとコンコンとドアを叩く音を響かせてゼロの声が聞こえた。
「入っていいよ」
「…エル、もう寝る?」
ゼロは黒いコートを着ていて、部屋のドアを開けて聞いてくる。
これから騎士団の仕事に行くのだろうか、見回りとかでたまに夜に出かける。
帰ってくるのが朝方で、二時間くらい仮眠してからまた仕事だから大変だ。
俺はゼロが心配で、読みかけの本にしおりを挟みベッドの横に置いた。
いつしかゼロが帰って来なくなるんじゃないかと不安で心がざわついて寝れなくなる。
ゼロがベッドに腰を下ろして、同じく座る俺に身を乗り出して口付ける。
少し口を開けるといつものように舌が入ってきて、絡み合う。
ゼロは誰かとした事があるのかと思わせるようにキスが上手い。
何も考えられないような、脳が溶けていき下半身が熱くなる。
今日は自分から舌を伸ばしてゼロを求めるとゼロは一瞬驚いたのか動きを止めた後、笑った。
「どうした?いつもより積極的だな」
「…にぃ、さま…いかないで」
「…っ」
つい本音が口からこぼれ落ちてしまい、ゼロは戸惑ったような顔をする。
ゼロを困らせたいわけじゃない、ただ…ゼロが俺を心配するのと同じように俺もゼロが心配なだけだ。
ゼロの結末を知っているからこそ俺はゲームの中では何も出来ない無力さを知っている。
……いや、違う…この世界はゲームではなく現実なんだ。
だとしたら、俺はゼロを最悪な結末から救えるかもしれない。
俺がゼロの弟になったのももしかしたら偶然なんかじゃなく、運命だったのではないか?
ゼロは強く抱きしめて、ゼロという存在を確かめさせてくれた。
ふと腰が急にひやりと冷たくなり、驚いて短い悲鳴を上げた。
自分でも驚くほどの高い声で、腰を見るとゼロが服の中に手を入れて俺の腰を触っていた。
「んぅ、兄様?」
「ごめんエル、エルはまだ小さいから…俺の歳くらいになったらエルにもっといろいろ教えてあげる」
ゼロはとても妖艶で色気のある顔を見せて微笑み俺は頬を赤くして俯いた。
もっとって何だろう、知りたいような…未知過ぎて知りたくないような…
前髪を上げられて額に軽く口付けを落とされてゼロは離れていった。
おはようのキスを絶対にしてねと約束をして部屋を出るゼロを見送った。
俺にとってのおはようのキスはゼロが無事に帰ってくる約束のような感じだった。
ゼロは寝不足で顔色が悪い俺を心配しないようにちゃんと肩まで布団を掛けてくれた。
まだ幸いな事にゼロは騎士団長ではないから間に合う。
俺がゼロのルートのフラグを全て折ってやる!そう決意した。
ゼロがいない寂しさで自然と頬を涙が伝い、腕でそれを拭い頭の上まで布団を被った。
早く夜明けがくるように、いつものようににこやかなゼロが見たくて眠りについた。
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