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第9話

「……っ、はぁ…ぁ」 近くで誰かの息遣いが聞こえる、苦しそうな声に目を開ける。 俺の目の前にいたのはゼロ、汗を掻いて眉を寄せている。 俺はゼロに膝枕をされて眠っていたようだった…ゼロの全身を黒い煙がまとっていて、危険な状態だという事は分かった。 それなのにゼロは俺の顔を見つめて優しく微笑んでいた。 ゼロの頬に触れると長時間雨に打たれていたからかとても冷たくなっていた。 周りを軽く見るとこの場に俺達しかいなくてなにが起きているのか分からない。 でも死体がないし、この状況のゼロが運べるとは考えられない。 まだゼロは人を殺していない、どうにかしてゼロを元に戻さなくては… 「兄様!俺だよ、分かる?」 「…は、ぁ…エ、ル」 「俺はもう大丈夫だよ、だから…」 俺がゼロを抱きしめようと腕を背中に回すと、ゼロは俺の腕を振り払った。 一度も拒絶された事がなくて、ショックを受けて固まった。 でもすぐにゼロは理由なく俺を拒絶しないという考えになり、ゼロを見つめた。 「しつこかった?」と聞くと首を横に振られた、でも肩を押して俺を離そうとしている。 よりゼロの周りの黒い煙は濃くなっていって、ゼロになんて言われようとも絶対に一人にはしたくなかった。 ゼロが小さな声で「お願いだから、エル…逃げろ」と言っていた。 今離れたらゼロは呪いの力に呑まれてしまう、絶対にそんな事させない! 「ごめん、兄様…でも俺は離れたくないんだ、言う事を聞かない弟でごめんね」 「……エル」 ゼロは困ったような顔をしていたが、俺の事を抱き締めてくれた。 さっきまで拒絶されていたからか、やっと受け入れてくれたような気分になった。 ゼロも俺と同じ気持ちだったって思ってもいいのかな。 ギュッとゼロの服を掴むと視界が真っ暗になっていく。 だんだん意識も奪われていったが、離れまいとゼロにしがみついた。 真っ暗な視界がだんだん白く変わり、俺はそこにいた。 真っ白なカーテンが風に揺れていて、外の風景を見せていく。 大きな窓から外を覗くと真っ白な砂浜に、スカイブルーの綺麗な海が見える。 生前の時も、テレビでしか海を見た事がなくて初めて海を見た。 静かな空間に海の音色が聞こえて、磯の香りがする。 俺が今いるところは何処なんだろうか、異質な空間を見渡す。 壁も家具も天井も全てが真っ白で、俺が着ているシャツとズボンも白かった。 俺はあの時、どうしたんだっけ…思い出そうとすると頭が痛くなる。 ソファーに座ってなにか雑誌のようなものを見ているゼロに近付く。 近付くとゼロが何を見ていたのか分かり、恥ずかしい気持ちになった。 ゼロに拾われてから今までのなにかの記念の度に撮っていた写真だった。 「可愛く撮れてるだろ?」 「こ、こんな写真撮ってたの?」 「俺にとってどんなエルでも愛しいよ」 口の周りを汚しながらごはんを食べる幼き頃の俺を見ると目も当てられないほど酷いものだった。 ゼロがアルバムを閉じて、俺を真剣な顔をして見つめるから緊張してしまう。 ゼロの服装もワイシャツに白いズボンというものだった。 まるでこの世界に俺とゼロしかいない、そんな錯覚を感じた。 ゼロが俺に向かって手を伸ばすから握ると自然と指が絡み合う。 そしてそのまま引き寄せられてゼロの膝の上に座る格好になった。 「ここは俺の精神世界なんだ」 「…兄様の?」 「そう、魔力は精神と深い繋がりがあるからね…エルは巻き込まれてしまったんだ」 ゼロは申し訳なさそうな顔をするが俺は首を横に振った。 どんな事があっても俺が行くって決めたんだ…ゼロが責任感じる必要はない。 それにしてもここがゼロの精神世界…普通に触れるし感じられるから不思議な感じだ。 それにゼロの周りを覆っていたのは黒い煙だったから、正直白いこの空間は不釣り合いだと思った。 でも、俺を優しく歓迎してくれているこの雰囲気はゼロそのものだと感じた。 俺達の精神がここにあるなら現実はどうなっているんだろうか、それとも肉体も精神世界に入れる? 精神世界の話はゲームにはなかったから俺にとって初体験だった。 でも、精神世界から抜け出せればきっとゼロの呪の力はおさまるだろう…多分。 「兄様、どうやったら帰れるの?」 「……帰る?何故」 さっきまで普通だったのに急にゼロの声が低くなり驚いた。 俺、なにか怒らせるような事を言っただろうか……帰るのは俺だけじゃなくてゼロも一緒に帰る事を伝えたら分かっただろうか。 そこもきっと理由の一つだろうけど、俺が説明すると「……何故帰るんだ?」と聞いてきた。 まさか帰らないつもりなのか?でも帰らないといろいろと困ると思うけど… ゼロは俺の胸に顔を埋めて「ここで一緒に暮らそう」と言った。 ここで暮らすとはどういう意味か分からないわけではない。 ここはゼロの精神の中だ、ずっといたらゼロは力に呑まれてしまう。 もしこの感覚を感じるのが肉体があるからなら、精神の世界で肉体があるのは危ない事だ。 「ダメだよゼロ、俺達の家に帰ろう」 「……エルは俺が嫌いか?」 「えっ……っ!?」 ゼロが離れたと思ったら突然ソファーに押し倒されて驚いた。 いつものおやすみのキスのような体制だからそうだと思った。 まだ寝るわけではないけど、いいかな…と考えて瞳を閉じた。 しかし、いくら待ってもキスをされる気配がなくてゆっくり目を開ける。 ゼロは微笑んで俺の頬に触れているだけでキスされない事に気付いて真っ赤に頬が色付く。 まるでねだっているみたいで、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。 「エル、好きだ」 「……俺も兄様が好きだよ」 「………」 ゼロは俺の人生を変えてくれた、ゲームのキャラクターの中で一番強くてカッコいいと思っていた。 弟としてだけではない、同じ男としても尊敬している。 その言葉を全部合わせて好きと伝えたがゼロは不機嫌な顔になっていた。 こればかりは何故か全く分からない、ゼロは優しく頬を撫でていた手を後頭部に回してキスをしてきた。 噛みつくような荒々しいキスに驚くがゼロは気にしていない様子でめちゃくちゃに口内を掻き回す。 息継ぎで精一杯になり、金魚のように口をパクパクするしかなかった。 「エル、俺がどんなにお前を愛しているか分からないんだな」 「…兄様?」 「教えてやるよ、俺の愛を」 ゼロが俺に愛情を注いでくれているのは十分分かっている。 でもゼロがこんなに怒るという事は、そういう事ではないのだろう。 怒るというより、心が悲しんでいる……そんな気がした。 この世界はゼロの精神世界だからダイレクトに感じるのかもしれない。 俺が「兄様」と言うと「この時はゼロと言うんだよ」と教えてくれた。 この時とはどの時か分からないが、俺は心の中では散々言っていたが本人の前で初めて「ゼロ」と呟いた。 ゼロが微笑んでくれて良かったとホッと胸を撫で下ろした。 「エル、ちょっとエッチな事しようか」 「…え?えっち?」 「エルに伝わるにはこれしかないからな」 そう言ったゼロは俺の首元に顔を埋めて、ゆっくりと舐められてゾクッと変な気分になった。 ピリッとちょっとだけ痛み、何をされたか分からずゼロを見たがゼロは何も言わず満足そうに笑うだけだった。 そして俺の足の間に膝を割り込ませて、グッと押される。 少し反応していたから顔を赤くしてゼロに止めてほしくて肩を押す。 でもゼロは膝の動きを止める事なく、どんどん擦り刺激してくる。

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