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第3話

◆ ◆ ◆ 「世純殿___あの、無子という……王子は何者なのでございますか?王の次男であられる賢子様の専属世話人として働く我でさえ、その存在を存じ上げなかった。よもや、隠し子などという存在では……」 「煌鬼よ、いずれ……隠し続けても襤褸が出るのは分かりきっているが故に、お主には告げるが__無子様は、単なる王の隠し子などではない。それに、今までお主が無子様の存在を知らなかった事自体が珍しきことだったのだ」 ふいに、静寂に包まれる____。 おそらく、世純は出来うる限りならば王の隠し子同然の無子について他人には語りたくないのであろう。その目は、垂れ下がり普段は厳しく引き上げられて目力が鋭く低い声で恫喝されるだけで「まるで鬼の如きお方だ」と周りの部下から恐れられているのが嘘のようだ。心なしか、目に涙を浮かべているように煌鬼の目にはうつった。 「わ、我が特別……と世純殿は仰りタイのでございますか?それならば、まさか__この王宮で公務する他の面々は……あの、無子という存在を既に知っておられるのでございますか?」 「無論、お主のように無子様の存在すら知らぬ者もおるが、それも少数だ。げに恐ろしきは、人の噂__とはよく言ったものよ。満月の夜に不気味な声が桜の木の下で聞こえてくる、と……それくらいならばお主とて聞いたことくらいはあるだろう?王宮の輩は昔から、物好きが多くての……こぞって、その正体を知ろうとどんな手を使ってでも行動する者も少なくはないのだ」 ざざぁぁ……っ____と風に吹かれて花びらが優雅に舞う桜の木に近づいた世純は今までに見たことがないほどに憂いを帯びた瞳で煌鬼を真っ直ぐに見据えた。 「いつの時代も、この桜の木の呪いがかけられたように人の心を狂わす美しさと__王宮に巣くう輩のおぞましき心は変わらぬ。煌鬼よ、何の因果かは知らぬが……お主は今宵、この桜の木の下で無子様の出会った__これから、間違いなくお主と無子様に受難が待ち受けておるぞ。昔から、この桜の木に関わった者は__ある者達は互いに心中し、その者らとの間に生まれたある者は、好いた相手もろとも王宮の参事に巻き込まれた。お主も、用心した方が……」 「あ、あの……失礼を承知でお聞きします。先ほどの無子様とは……単なる隠し子ではないと仰っていましたが__なにか特別に王が隠したがる事情がおありなのでございますか?」 「お主の言うとおり……今、この地には__ある事情により、雨がいっさい降らぬ。地は枯れ果て、国民は悲鳴をあげておる。つまり、無子様は____雨を降らすためにひっそりと育てられた存在。生け贄として、育てられた……哀れなる存在なのだ。このまま、この地に雨が降らなれば__その時は……」 世純は、そこで言葉を切り__その後、彼が言葉を発することはなかった。

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