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第6話

「おいおい、急に席を立ったから何事かと思ったぞ……っと、これはこれは――麗しの第一王子であられる天子様ではありませんか。また、お戯れの時間でございますか?このように頻繁に娯仕店区に忍び込んでいらっしゃるというのに……お咎めなしとは、さぞかし良いご身分でいらっしゃいますね」 希閃だった____。 急に席を立った煌鬼を心配したのか、慌てて追い掛けてきたせいで片手に半分ほど酒の入った盃を持ったままだ。 「ち、調子にのるでない……僕は第一王子なのだから……貴様など、如何様にも処罰できるのだぞ。一介の守子が――王子に悪口をたたくとは……」 辺りには、三人以外に他の輩がいないのをいいことに少しばかり__むっ、として怒りをあらわにした天子が、立場が下である守子が国の未来を担う予定の王子に軽口をたたくという恐れ知らずの希閃へと言い放つ。 このやり取りを見るに、希閃と天子が娯仕店区内で初対面ではないということに対して驚愕を隠しきれない煌鬼は呆然としつつ無言のまま二人を見つめることしか出来なかった。 「希閃よ、お主はこの御方が天子様だと__気付いたのか?普段の公務中は常にぼうっとしているお主が……気付けたというのか?」 「なっ……何だよ……その、如何にも俺が阿呆だと言いたげな顔は……っ__だいたい、麗しの第一王子様は俺ら守子達とは格が違うんだから気付いて____」 ____当たり前だろう、と希閃は言いたかったに違いない。 しかし、その先に続く彼の言葉は__またしても予想もしなかった声に掻き消されてしまう。 それも、複数人の途徹もない金切り声によって希閃の軽々しい声色は途中で掻き消されてしまったのだ。 (な、何だ……悲鳴は先ほど希閃と共に盃を交わしていた場所の方から聞こえてくる……っ____) 妙な胸騒ぎを感じた煌鬼は、あまりの驚愕で目を丸くして無言となってしまった希閃と天子を「ここから動くな」と注意を促して放置したまま、急ぎ足でつい先ほどまでいた店の方まで駆けていく。 店内は先ほどまで酒池肉林と化し、愉快そうな様とは一変して周りの守子達が騒ぎ出し逃げるという阿鼻叫喚の光景となっていた。怒号があちらこちらに飛び交い、中には殴り合いの喧嘩までしている者達もいる。床には綺麗に盛り付けられた酒の肴や、酒があちらこちらに飛び散っているのが驚きのあまり言葉を失った煌鬼の目に飛び込んできた。 すると____、 どんっ――と一人の守子と勢いよくぶつかり、よろめいてしまう。 「……ちっ…………」 「お、おい………いったい、この騒ぎは何だ?此処で、何があったというのだ……っ……」 ぶつかった黒守子から苦々しい表情を浮かべられただけでなく同時に忌々しそうに舌打ちまでされてしまった煌鬼だったが、それでも――この惨状を放ってはおけまい、と思ったため普段ならば『どうせ守子共が喧嘩したのだろう』と面倒事を避けようとするのを思い直すと、そのまま此方を睨み付けて無言で離れようとした黒守子の腕を引き寄せて真剣に尋ねる。 公務中、何度か言葉を交わしたことがあり顔見知りの黒守子なのが幸いだった。 「彼処を見てみろ__おいらは、これ以上__関わらないぞ。それと、煌鬼よ……他人にぶつかったら謝るくらいはしろ…………これ以上、厄介事に首を突っ込みたくはない」 「…………?」 そう言い終えると、そそくさと黒守子は去って行ってしまうのだった。

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