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第12話

◆ ◆ ◆ それから数日のこと_____。 あれから、共に【歌栖が不審死に至った真相】を共に調べると誓い合ったにも関わらず煌鬼はなるべく公務以外では允琥との接触を、避けていた。 『周りの者に怪訝さを抱かせないためにも――普段通り接していた方が互いにとっても良かろう。ただ、おいらは……その……っ……歌栖殿の無念を理解してくれる貴様を……少しは__見直した』 ふと、数日前の允琥とのやり取りを思い出して自然と笑みがこぼれる。無論、允琥から誉められた喜びというよりも普段は仏頂面で何を考えてるのか分からない彼から少しは認められて己に対する本音を引き出せたというある種の優越感からくる笑みだったが____。 しかし、それでも何かと邪魔は入るものだ。 「おい、煌鬼……お前はさっきから何がそんなにおかしいんだ?まさか、つい先日に此処で惨たらしい殺人事件が起きたのが……そんなに喜ばしいってのかよ?ああ、ほら……いくら何でも酒の飲み過ぎだぞ。」 「そんら……訳……が、ないだろうが。あのなあ、まだまだ……酒なんれ……いっくらでも……飲めるんだ……だいたい、希閃――お前だって……物凄く……嬉しそうじゃ……ないか……ひっく__!!」 ぐでん、ぐでんに酔っぱらい見るに見かねた希閃が呆れながら尋ねてきた。酒の飲み過ぎのせいで僅かに霞みがかってはいるものの向かい側に座る希閃の手に握られ、尚且つ酒の入っている杯が目にうつる。 二人は、再び【娯支店区】に来ていて酒を飲み交わしているのだ。なお、つい先日に【逆ノ目郭から献上された花魁】に起きた惨たらしい事件のあった箇所は警護人が数人立って目を光らせていて《立ち入り禁止》となっている。だが、今宵は花魁の事件が起こる前よりも遥かに客が少ない。 その証拠に、数々の酒屋や食べ物の屋台の店番は、何をするでもなく暇そうに此方を眺めていたり酷いと欠伸までしている始末だ。 それでも、【娯支店区】全体が立ち入り禁止とならなかったのは心優しく配下思いでもある王の配慮だと風の噂で聞いた。 「普段は無愛想で堅物のお前が、そこまで酔っぱらうなんて……珍しいな。何かあったのか?」 「ああ、実はなぁ…………」 呂律が回らないながら、酒の勢いで気分を良くした煌鬼は允琥と共に歌栖の不審死の真相を調べようと結託した事を――ついつい、こぼした。 それを聞いた途端、目の前に座っている希閃は益々口元を綻ばせ、その深い興味をあらわにする。 「そういや、酔っぱらいのお前に言っても仕方ないかもしれねえが__王族の中で邪魔者扱いされてる弱虫で非力な哀れな王子を覚えているか?」 「んー……ああ、それくらい……ひっく__覚えて――」 「あの、無子とかいう例の王子は 薄暗い大殿の地下牢で……煌鬼――お前の名をしきりに呼んでいるらしいぞ……会いに行ってやったら如何なんだ……って、もう聞こえてねえか__」 呆れ顔の希閃を前に、とうとう強烈な眠気に耐えられなくなった煌鬼は頭の中でしきりに「無子とは誰だったか?」と考えながらも途中で集中が途切れてしまい、酒や食べ物が並ぶ机の上に豪快に突っ伏して眠ってしまうのだった。 ◆ ◆ ◆

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