15 / 122
第15話
少しばかり、無子なる王子の体を無言のまま抱き締めていた煌鬼だったが、何故かは知らないものの不意に憎たらしいほどに偉そうな表情を浮かべる允琥の顔が思い浮かぶ。そのせいで、はっと我にかえった煌鬼は慌てて無子の体から離れる。
「……っ____」
何故に、允琥の顔が思い浮かんだのか己ですら分からず困惑していた煌鬼だったが、その直後――更に動揺を誘うような出来事が起こる。
「煌鬼よ、お主は……何故に拒むのだ?鎮めてくれ、と……命じたはずだ。この胸の高鳴りを……鎮めてくれ」
酒を呑んだかのように顔を赤く染め、尚且つ――目の焦点もあまり定まっていない。無子の暴走ともいえる言動を見て、煌鬼は辺りを見回す。Ωの発情期を抑えるためには、専用の丸薬を飲むことが必要で彼も肌身離さず持っているはずだ。
しかし、彼はそれを怠っているか――もしくは忘れてしまっているのだ__と思った煌鬼は早々に丸薬を無子に飲ませなければと行動に移す。
暫く丸薬を探すものの、なかなか見つけられない。
(参った――やはり、希閃の言葉を聞いて好奇心
を抱いたからと、軽薄な行動をすべきじゃなかった……このまま丸薬を探せなければ、彼を鎮めるために……淫戯を行わなければならなくなる……っ……)
とうとう、脇で自慰に耽り始めた無子を気まずげに見つめながらも手を怠けることはせず必死で丸薬を探していた煌鬼だが何処にもないことに気付くと、再び視線を王子へと向ける。
無意識のうちに、無子の自慰による喘ぎ声を耳にして己の下半身にまで熱が込もってしまっているのを自覚したせいだ。どんなに耐えぬこうととしていても、人間の性欲という本能には逆らえず煌鬼の下半身にある魔羅はどくどくと脈うち、有ろうことか勃起してしまっていたのだ。
それを、なんとかして無子に気付かれぬように――これまた無意識のうちに内股になりつつ隠そうとするものの家族や従者から邪険にされそういったことに敏感な哀れなる王子の目を誤魔化すことは出来なかった。
「我が兄、賢子の専属守子である煌鬼よ……お主とて興奮しているのに……何故、それを隠そうとするのか……お主のここを――鎮めれば答えは分かるのか?」
「な、何をなさるのでございますか……っ……私は__身を売るような花魁や、男娼ではないのでございます……そもそも、丸薬は……丸薬は何処にあるのですか!?」
「そんなものは、此処にはない……それに、そんな事はどうでも善きことじゃ。余を……受け入れてくれ、煌鬼よ……余は、余には時間がないのだ……もうすぐで余の命は終わる……だから、余を――受け入れよ」
無子の目から涙は流れてはいない____。
しかしながら、潤んだ瞳を此方へと向けて儚いながらも、どこか力強く言う無子の剣幕に押されてしまった煌鬼は下衣の上からとはいえ魔羅周辺を慣れた手つきで擦ってくる手を払うことは出来なかった。
そして、Ω特有の発情期の症状とはいえ――すっかり無子の積極的な言動に流されて為すすべなく下衣をずり下げられてしまいそうになった時、煌鬼にとっても無子にとっても予想出来ない事態が起こるのだ。
「おい、貴様……其処で、いったい何をしているのだ!?此奴を牢の中に通した警護人は何処にいる……相応の処分を下すことを覚悟しておけ」
「…………っ……!?」
うわっ――という驚きの声が出そうになるのをぐっと堪えて、唐突に背後から浴びせられた怒声を耳にした煌鬼はびくっと体を震わせる。
しかし、それと同時に心の片隅で安堵する自分がいた。どのような状況であれ、これで無子から淫戯を迫られることが阻まれたからだ。丸薬がないのは変わらないため、根本的に解決したとは言えないものの狭い牢屋の中に二人きりでいるよりかはましに思えた。
仕方なしに、おそるおそる背後を降り向くと__鬼のような形相をして肩で息をしている警護人の頭の【朱戒】が立っているのだった。
ともだちにシェアしよう!