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第23話

難しそうな書物やら、童説話にきっちりと几帳面に並べられている本棚の奥の方から__いったいどんな物が落ちてしまったのだろうかと煌鬼は疑問を抱いた。 畳の上に落ちたそれを遠慮がちに手を伸ばして拾って確認してみたところ、それの正体が《黒い鳥笛》だということに気付いて更なる謎が増えてしまったのだ。 周りの警護人達から《鬼》のようだ、と噂されている朱戒の本棚に童子が好むような童説話が混じっていたことも、かなりの疑問だったのに加えて、これまた童子が好む《鳥笛》が奥の方に__しかも、隠すかのように押し込まれていたのも不思議で堪らなかった。 しかしながら、そのことを《鬼》のようだと噂されている朱戒に向かって面と聞く勇気もない。 ふと、ここから少し離れている台所の方から苦そうな香りが漂ってきて、それと同時に陶器がかち、かちゃと擦れ合う音が聞こえてきた。 どうやら、台所に引っ込んでいた朱戒が香茶を煎れ終えたらしい。そうとなれば、直に此方へと戻ってくるに違いない。 心の中にもやもやとしたものを抱きつつも、この場面を朱戒本人の目に触れさせる訳にもいかず、煌鬼は素早い手つきで《黒い鳥笛》を本棚の奥へと押し込めた後に再び資料を探している素振りをするのだった。 * 「おい、何かやましいことでもあるのか?休憩させてやったというのに、さっきから上の空だぞ……貴様は世純様の顔に泥を塗りたいのか?」 「い、いや……別に……やましいことなどないぞ。ましてや、尊敬する世純殿の顔に泥を塗るつもりなど……俺にはないが?」 このままだと、押し問答になりそうだ。 何とか、疑り深い朱戒を誤魔化そうと彼がもてなしてくれた香茶を啜る。 冷めにくい効能を持つ茶っ葉でも入っているのか、かなり前に持ってきてくれたものとはいえ未だに湯気がたち、尚且つ苦味と甘味が混じり合った何とも言い難い独特な香りが煌鬼の鼻腔を刺激している。 煌鬼は隠しきれているつもりでも何度も修羅場をくぐり抜けた朱戒の目は誤魔化せてはいなかったのだ______と、煌鬼が自覚したのはその直後のこと。 「なるほど、本棚か。ははあ、さては貴様――あの本棚の中にある我の書物を床にでも落としたのだろう?」 「___っ…………!?」 ぎくり、とした-------。 それだけでなく、体まで無意識の内に震わせてしまっていた。 妙に険しい目付きで真っ直ぐと煌鬼の瞳を見据えている朱戒はやはり誤魔化しきれないらしいと煌鬼は悟り、暫らくしてから口を開こうとするのだった。

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