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第53話

「こんな夜更けに、ぞろぞろと……いったい何事か?ましてや、今宵は何故に皆で吾の寝所へ押しかけてくるのか……甚だ疑問であるな」 確かに、慧蠡の申す通りだと煌鬼は口には出さぬものの心の中で納得した。 しかしながら、その思いもすぐに心から消え去ってしまったのは、どことなく不機嫌そうに欠伸を噛み殺しながら煌鬼らを中に通し終えた慧蠡の視線が不意にある場所へと向いたからだ。 きっちりと掃除され、井草の芳香が部屋中へ漂う畳に敷かれている布団____。 そして、そこで寝息を立てている人物を目の当たりにした途端、煌鬼だけではなく誰しもが驚きのあまりに声を失ってしまう。 異国からの来訪者であり、本来は王族医師である慧蠡の寝所になどいる筈のない【湖雨の第二王子】が眠りについているのだから周りにいる煌鬼ら一行が驚かない訳がない。 一際、異国である湖雨からの案内人の男が青ざめながら布団の方へと急ぎ駆けよったのは己が仕える第二王子が額に汗を浮かべつつ 予想も出来ない場所で眠りについていたからなのだろう。 「な……何故に、このような相応しくない場所に……っ____もしも、このようなおぞましき事実が知れたら、偉大なるお父上が何と申しましょうか……【阻雀・天音之尊】の名が汚れ、単なる傀儡でしかない貴方は国を追われるか――はたまた用済みの存在として葬り去られることでしょうな」 主である【阻雀・天音の尊】が眠りについているのを知っているとはいえ、思わず、ぽつりと呟いてしまったであろう湖雨から来訪した案内人の男は目の前にいる彼に対してまるで汚い物でも見るかのような蔑む醜い目を向けて普段は言うことを許されない下衆な鬱憤を吐き出したのだ。 しかしながら、海を隔てた遠い異国である湖雨の事情など知り得ない煌鬼と朱戒――それに自国から存在を碌に認められていない第三王子の無子は何も言うことができずに不愉快さや不安をあらわにしつつも口をつぐんだまま地蔵の如く立ち尽くしている他なかった。 だが、 「貴は……このように体を震わせ、怯え弱ききり、つい先刻まで魘されていた王子を侮辱することでしか己の存在を誇示できぬのか……いくら暴君だ何だと噂されていても、所詮は子供にしか過ぎないこの哀れな第二王子を今まで幾度となく追い詰めてきたのか。この腹にある痣は、他社によってつけられたものだ。黄色いゆえ、すぐに出来た痣などではない……このように実子である第二王子を虐待し、権力を誇示する王の元で仕えているとは何とおぞましきことか……反吐が出そうだ」 あくまでも、冷静に慧蠡は湖雨から来訪してきた案内人を責める。 それは、大きな声を出して第二王子が起きぬように配慮したためだろう。 まるで、般若の如く静かに怒りをあらわにする慧蠡のおかげで下らない戯れ言を吐かなくなったばかりかすっかり大人しくなった異国から来た案内人の男を尻目に本来の用事を済ませるべく煌鬼と朱戒は今さっきあった出来事を慧蠡へと告げるのだった。 *

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