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第60話

※ 明くる日、煌鬼達守子の一行は全身白い衣装を身に纏い、葬儀の参列に参加するべく王宮内の廊下を静かに歩いていた。 ここ二、三日続いていた曇天ではなく、久方ぶりに陽光が地上へと降り注ぐ真昼の空。 まるで、煌鬼の深い哀しみを見透かされ、おちょくられたように感じてしまう雲ひとつない澄んだ晴天を見あげつつ、ひとつため息をついた。 それというのも、今――煌鬼は数多くの守子達と共に世純の骨壷を持ち、込み上げてくる涙を堪えつつ静寂に包まれている廊下を行進している最中なのだ。 かつて、煌鬼を叱咤激励し実父の如く己に対して深い愛情を注いでくれた世純の実体は既にこの世に存在せず、ただ骨壷の中に灰があるのみという無残なる仕打ちに煌鬼の脆弱な心は押し潰されそうになっていた。 何とか、涙を流さぬように歯を食い縛るので精一杯だったが、それでもこの残酷な運命に押し潰される訳にはいかないと思い直した煌鬼は、ふと前方を歩いている希閃とその隣にいる朱戒の背中へと目を向けた。 (そういえば、二人は相当な長さの髪を伸ばしたままにしている。いや、長さはほぼ同じくらいだとはいえ何かが少しばかり違うようだが……) 現実逃避の如く彼らの腰ほどまである、ほぼ同じ長さの髪について考え込んでいた煌鬼だったが、その些細な思考も途中で掻き消されてしまう。 遺灰を埋める目的の場所に着いたため、参列している皆が同時に足を止めた。 しかしながら、悶々と考え込んで呆然としていた煌鬼は足を止める時を見誤り希閃の背に顔を突っ込んでしまったのだ。 むろん、すぐに此方へと振り向いたひょうきん者な彼からはお咎めはなく代わりに、にやりと意地悪く笑みを浮かべられただけだった。 からかっているのか、はたまた大切な存在を突如として奪われてしまい意気消沈している煌鬼を彼なりに励ましてくれているのかは分からなかった。 そんなことをしている内に、希閃と朱戒の髪に対しての些細なる違和感が何のかという疑問など、すっかりと煌鬼の心から消え去ってしまっていたのだった。 * あろうことか、中庭の枯れて生気のない老人の腕のようにしわしわになっている桜の木の真下に世純の遺灰を土深く埋め、更に皆で合掌しながら天に召されゆく魂を鎮める意味の【尉命歌】を歌い終えて、ようやく葬儀を終えたのだった。 ※ 葬儀を終えた日の夜中____。 やはり、完全には哀しみを癒せていない煌鬼は昼間に来た【痩せこけて生気を失った老人のような桜】のある中庭に一人きりで来ていた。 満月が、とても魅惑的な夜で途徹もない哀しみに支配されている状態でいなければ、さぞかし絶好の月見日和だったに違いない。 しかしながら、そもそも精神状態が良好であれども一人でする月見など味気ないことだ――と心の中で思い直した時、背後にある気配を感じておそるおそる振り返る。 それは、ちょうど昼間に世純の遺灰を埋めた場所____つまりは桜の木の真下から少し右に逸れた所に着いたときのことだ。 「…………」 「なっ…………あ、貴方こそ、何故にこのような時刻にこのような場所に一人きりでおられるのですか?」 振り向いた視線の先には無子なる哀れな境遇の見捨てられつつある王子が、いつの間にやら静かに立っていた。 しかも、今までとはまるで違う容姿で無言のまま血のように赤い瞳で此方を見据えているのだ。 そして、哀れなる王子は煌鬼へとこのように問うのだ。 「お主は、種なる脱皮を完遂し、開花した世純に……会いに来たのだな。かつての世純が告げた通りになった。お主、あそこを見てみよ」 そうして、以前とは容姿が変わり髪や肌がまるで兎の毛のように真っ白になり瞳まで赤く変化している無子が枯れている桜の方をゆっくりと意味深げに指差すのだった。

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