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第100話

すると、船頭は明らかに不快な表情を浮かべて無言で横たわっている人物を見下ろす。 その後、声をかけてきた煌鬼の方へ目線を移すと怪訝そうな表情を浮かべながら下品に口元を歪め、意外なことに迷惑料として差し出した金袋を受け取るどころか手で払いのける。 それどころか、船頭は煌鬼や傍らにいる允琥の予想を遥かに超える行動に出た。 ぐったりと横たわったまま――かろうじて、ぜい、ぜいと肩で息をしている人物の体を足蹴にすると、再び煌鬼と允琥の方へ目線を戻す船頭。 下品に歪められた口元が、引き締められることはない。 「いいか、ここいらじゃあ……具合が悪い輩なんざ、虫けらも同然なんやき罪人かつ余所者は余計なこというもんじゃないんやな。貴重な労働源とならん者ば、こうするしかないんや。おめえさんらが、逆ノ口鉱山に行くっちゅうんなら尚更やんな。役立たずの木偶を送り込んでみい。甲ノ家と乙ノ家の跡取りの坊様ら……特に甲ノ家の坊らが黙っとらんわ!!」 しぃんと、辺りが静まり返る。 船頭は、一人ではなく数人いたのだが周りにいる他の誰もが黙ってしまい、怒鳴った老年の船頭に対して文句を言う者などいなかった。 すると、船頭のうちの一人であり、先程怒鳴った老年の者よりも遥かに若い船頭が此方へと近づいてきた。 そして、弱りきって最早虫の息となっている男の両手を握る。更に耳元へ口を近づけると、そのまま皆が見ている前で何事かを囁きかける。 「済まん、ほんに済まなんだなぁ。だけんど、こうせんと――おいらたちの平穏な暮らしも終わりやき。どうか、どうか……堪忍してや。こうなったんも、何もかもは……外法様の____」 若い船頭が何を呟いているのか、好奇心をそそられた煌鬼だったが、途中で大波が船を打ちつけたせいで、ちょうどのところでよく聞き取れなかったため呆気にとられてしまう。 (外法様……とは、いったい何のことだ____) ____と、煌鬼が疑問に思った直後のことだ。 若い船頭は躊躇をすることもなく、他の船頭と共に弱りきった男の体を持ち上げると、そのまま手慣れた手付きで波が揺れるせいで濁りきった海へと放り捨ててしまう。 「そ、そんな……そん……な____あの人は、まだ……生きていたのに……っ……!!どうして、どうして……こんな……酷いことを……っ____」 必死に訴えかける允琥の切なげな叫びだけが、逆ノ口鉱山へ向かう舟上で虚しく響き渡る。 すると____、 「おい、そこの澄ました坊主____。言いたかないが、そんな甘ったれた考えで逆ノ口鉱山でべそかくんじゃねえべ?いいか、覚えときな。これから行く逆ノ口鉱山じゃあ……そんな甘ったれは他の奴らのお荷物なんだべ。そんなんは、おいはご免だべ。やけん、くれぐれも足引っ張るんじゃねえべな。逆ノ口鉱山では弱りきった役立たずは切り捨てられるだけだべ……あと、うっとおしい泣き虫もだべさ」 またしても、聞き覚えのない男の声が聞こえてきて慌てて視線をそちらへと向ける。 煌鬼は允琥を責めるような言葉をぶつけられたということに対して怒りと不快感を覚えたのだが、両手両足を麻縄で繋がれている、その男の姿を見るなり不思議と苛立たしさが、すっと消えてしまう。 どことなく、懐かしさを感じたのだ。 その男とは、初対面な筈にも関わらず____。

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