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第101話
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麻華ヶ島にひっそりと存在する、逆ノ口鉱山____。
そして、逆ノ口鉱山へ着くためには必ず通ら娜ければならないという【談下腸之道】と呼ばれている場所の入り口の目の前に立った時、とてつもなく鳥肌がたってしまった。
くねくねと曲がりくねっている山道が続く____。
そもそも、道と明確にいっても良いのかどうかさえ怪しい。
少なくとも、煌鬼が故郷の村で見たことがある歩道とは全くの別物であり、碌に人の手で整備すらされていないというのが、ぼうぼうと生い茂っている雑草が両脇でざわざわと揺れていることから伺える。
更に、獣道の入り口からひたすら続く長く曲がりくねっている道には、隙間がないくらいの順路に従って近距離かつ等間隔でびっしりと鳥居が設置されているのが見える。
しかも、王宮の外では一般的といわれている赤く立派な鳥居ではない。
黒く、そこらかしこが、ぼろぼろに壊れかけている不気味な鳥居が――ずらり、ずらりと続いているものだから、えも言えぬ不安が煌鬼の体へと纏わりついて直ぐには離れてはくれない。
こんなにも、不気味さと不快感を感じてしまうのは――ここに連れて来られた直後に、船頭から介の者と呼ばれていた島人から無理やり両目部分のみをくりぬかれた麻袋を頭に被せられ、更に数十はいるであろう罪人達を一纏めにするために両手に赤い麻縄をくくられてしまったからだろうか。
頭に被せられた麻袋のせいで、息が詰まるような感覚に襲われてしまうから、こんなにも寒気と鳥肌を伴う不快感を感じてしまうのだろうか。
目の前に存在する異様な光景を目の当たりにするなり、煌鬼は王宮がある場所とも――更には王宮に来る前に希閃と共に暮らしていた村とも全く違う空気を感じてしまう。
何よりも違うのは、土砂降りとはいえないまでも、ひっきりなしに雨が降っており、じとじととした纏わりつくせいで否が応でも感じる不快な空気だ。
暮らしていた場所が王宮であれ、故郷の村であれ――いずれにしろ、雨が降ることなどなかったものだから、正直に言って、すぐには慣れそうにもないなと思ってしまう。
それに、この逆ノ口鉱山へ続くという蛇のように曲がりくねった山道とやらの周りには、やたら空中を飛び回る烏が多いというのも煌鬼の不安な心に一層火をつけた。
(確かに、故郷の村にも烏は少なからずいたものだが――それにしたって、この数は尋常じゃない____)
ぎゃぁぁ、ぎゃぁっ____と自分達の真上を好き勝手に飛び回る烏の大群(何百羽いるといっても過言ではない)の不気味な鳴き声を聞く内に、煌鬼は立ち眩みを起こしてしまい平衡感覚を失ったせいでよろめいて地に倒れてしまいそうになる。
「ったく……大丈夫だべか?だから、おいは言ったんだべな。おいの足を引っ張るんじゃねえべってな____」
「え……っ……あっ____ありがとう……ござい……ます」
煌鬼が、地に倒れることはなかった。
それは、先程――木舟で出会ったばかりの男が咄嗟に煌鬼の体を抱き上げたからだ。その男の体躯は、まるで熊のように逞しく煌鬼の体など幼い童子だといわんばかりに、ひょいと軽く抱き上げられたため情けなさと有り難さとが入り交じった複雑な表情を浮かべながら目線をさ迷わせつつも礼を言う。
ふと、横から強い視線を感じる。
何故だか知らないが、允琥からじとりと睨まれている煌鬼。
そして、妙に気まずさを感じてしまったため、煌鬼は当たり障りのないことを男へ聞くことを決意する。
「あ、その……出来れば、あなたの名前を教えてくれませんか?」
「おいの、名前か?そんなん別に教えてもいいべ。それはそうとして、何でさっきから――おいに対して敬語なんだべ?」
「そ、それは…………貴方とは初対面だし、それに____」
(さっき舟の上で弱っている人に対して見捨てるような……酷いこと言っていた人だから____とはいえ、直接的な行為をしたのではない……)
____と、つい言葉が出かかってしまった。
だが、何とか口にする前に、その答えを飲み込んだ。
それというのも、先程からずっと男を睨み付けていた允琥が黙っているだけでなく、遂に行動したからだ。
「そんなことはどうでもいいから、さっさと煌鬼の側から離れろ――この、血も涙もない野蛮人め……っ____」
「い……っ__允琥……っ……!?」
正直に言って、ぞっとした。
王宮に暮らしていた頃から、允琥とは会話はあまり交わらせなかったものの、それなりに交流はあったが今のように凄まじい怒りに震えて地の底からわき上がるような低い声を聞いたのは初めてだったからだ。
周囲が陰湿な空気に支配されている場所だから、輪をかけて不気味に感じたのだろうか____。
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