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第108話
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その後は特に危険な目に合うわけでもなく、甲ヶ耳上足首の男と早乙目家頭首と足首である二人は各々の暮らす場へと帰っていったのだが、それから煌鬼と允琥を含む罪人一行は暫くぬかるんだ山道を黙々と歩いていった。
そして、そうこうしている内に完全に日が落ちて辺り一面真っ暗闇と化したため、湿った土の上に所々破れて穴があいている藁をかき集めてどうにか出来た寝床にて、ようやく体を横たわらせる。
今は、真冬の季節ではない。
____とはいえ、罪人達の数が多すぎるがゆえに隣人とぴったりくっつき合っているのだから、そのうち暖かくなっていくだろうと思い込んでいたのだが、それは甘い考えだったと思い知らされてしまう。
どういうわけか、これだけ名も知らぬ隣人とくっつき合っているというのに一向に暖かくなっていく気配がない。
(ここでは誰も彼もが……体を休めるだけで体温を奪われてゆくとでも……いうのか____)
更には王宮内にて暮らしていた頃と違って、上質な寝巻きがあるわけでもなく、ましてや暖かな羽毛布団や枕を使用して快適な眠りができるということが、ある程度保証されているというわけでもない。
山という特殊な場にいることが災いしてか、王宮で暮らしていた頃には感じたことのない強烈な寒さが煌鬼と允琥に容赦なく襲いかかる。
針山に放り込まれ、始終鋭い切っ先でつつかれているかのような過酷な寒さなど王宮に来る前に過ごしていた古里――《瑳玖村》ででさえも経験したことがない。
そこでは年中のほとんどが雪に覆われていたというのに、今の方が余程寒いと感じてしまうのだから堪ったものではない。
そんな、己ではどうすることも出来ない自然の猛威という壁にぶち当たり、早くもこれから長いこと続く【逆ノ口鉱山】での暮らしに対する不満を思い浮かべるだけで気が滅入ってしまった煌鬼は両目を固く瞑り、とにかく眠りにつくことで英気を養おうと試みる。
(流石に雪山ではないゆえ、凍えながら生を奪われるということはないだろう____允琥も眠りについたようだ…………)
「……っ…………栖____」
允琥は自分よりも遥かに精神が図太いということを実感せざるを得ない煌鬼だったが、ふと彼が小声で何事かを呟きつつ目から涙が流れていることに気付いて、愚かな考えを改め直す。
允琥は今でも想い人である歌栖の命を奪う元凶を作ったのは自分だと罪の意識に苛まれ続けているのだ。
歌栖は見た目が美しかった。
更に言うと、允琥も数多くいる【守子】の中でも格段に見た目が美しい。しかも、体格も小柄ゆえに厭らしい目で彼を見る者も多い。
かつて允琥は、ある赤守子の愛人になれと誘われ四六時中付きまとわれていた。
かつて歌栖は、そんな允琥を哀れに思い誤って赤守子の命を奪ってしまい先代王の怒りを買い、刑に処されて生を終えた。
(自分の存在を罪深く思うなど、何と哀れなことか…………だが、やはりそれでも允琥は強い____こうして私についてきてくれたのだから……っ……)
煌鬼は心に小骨が突き刺さるかのような罪悪感を感じつつも、允琥の顔へ人差し指を近付けていくと、そのまま彼の涙をすくいあげる。
「すまない……さほど関係のないお前を巻き込んでしまった____朱戒を何としてでも救いたいという……私の身勝手のせいで……お前を罪人にまで仕立ててしまった」
煌鬼の心の底から湧き出てくる謝罪の言葉は、深い闇夜に吸い込まれていき、やがて眠りにつくのだった。
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