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それからだ。CDを借りて、時々一緒にライブに行くようになって、急速に仲良くなった。
確かに、知れば知るほど神野は変な奴だった。
いつのまにか僕を「ハル」と呼ぶようになった神野を、お返しに「アキオ」と呼んでみたら「名前で呼ぶんじゃねえ」と怒られたり。不公平な気がして悔しかったから、ずっと苗字で呼び続けてやると決意した。
放課後はよく、用もないのにファーストフード店に入り浸っては飽きずに話をしたものだ。
「ハルー、アルバム聞いたか? 2曲目のリフすげーカッコよくね?」
「『Don’t Leave Me Alone』だっけ? あー…すぐ出てこない。神野、細かいとこまでよく聴いてるよな」
「当たり前だろ、バカ。ていうか今聴け」
プレイヤーに繋げたイヤホンを片耳にはめると、問答無用でもう片方を僕の耳に突っ込んでくる。
…痛いカップルみたいだ。苦笑いしかけたけれど、神野の真剣な顔に余計な茶々を入れるのはやめておいた。
イヤホン越しにドラムの爆音が耳元で弾ける。ザリザリとした砂のように不穏なノイズの中に、星屑みたいに流れるギターのフレーズ。暴力的なのにどこか儚くて心が引っ掻かれたように熱をもつ。
「あ。これ好きだ」
「だろー?」
コーラ片手に神野はなぜか得意げだ。割と大人びた顔立ちなのに、時々子供みたいな反応をするのがなんだか微笑ましい。
小さく鼻歌を口ずさんでいるその顔をこっそり観察してみる。
茶色の髪は地毛なんだろうか。眼光は鋭いけど、意外と睫毛が長い。すっきりと通った鼻筋とか、少し薄めの唇とか、整った顔してるんだから黙ってたらモテそうなのに。
「……何見てんだよ」
あ、ばれてた。怪訝そうに僕を見るから「別に」と笑ってごまかしておいた。
その時、テーブルの横を通り過ぎようとした、同じ高校の制服の集団の1人が立ち止まった。
「おー、須和と神野じゃん。何してんの」
降ってきた声に顔を上げると、同じクラスの村瀬直樹が屈託無い笑顔でこちらを見下ろしている。いつも人の輪の中心にいて、持ち前の明るさと人懐こさがそのまま顔に出ているような奴だ。「陽」のオーラがすごく眩しい。
神野が興味無さそうにコーラを啜っているから、イヤホンを外すと僕が代わりに答える。
「ちょっとね……。暇だったから時間つぶしてた」
「そっか。このあと俺らカラオケ行くけど、暇ならお前らも来る?」
「俺はパス」
秒殺で断る神野に、僕の方が固まってしまう。
「お前はそう言うと思った。須和は?」
特に気にする様子もなく、村瀬は僕に視線を向けた。こんな時一言行かないと言えば済むのに、断り方をあれこれ考えてしまう自分が情けない。
「えーと……」
「あ。須和もパス」
神野が代わりに素っ気なく答える。「なんだそりゃ」と村瀬は可笑しそうに笑うけど、僕は焦りと気まずさで変な汗が出そうだった。
「ごめん。誘ってくれてありがとう」
「あはは、全然いいよ。じゃあな」
村瀬は軽く手をあげると、入り口で待っていた集団と一緒に店を出ていった。
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