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 知らないうちに緊張していたのか、息苦しくて大きく息を吐く。神野に助け舟を出してもらうなんて、どうしようもなく情けない。 けれどやっぱり、僕は人にどう思われるかが怖い。目立たないよう自分を取り繕っても、変に思われるんじゃないかとか、不愉快にさせるんじゃないかとか、そんなことばっかり考えてる。 そこまで誰も僕のことなんて気にしてないと、頭では分かってるのに。 「神野って強いよな」  ぽろっと口にしてしまった言葉が卑屈っぽく思えて、少し後悔した。  すっかり自分の分を食べ終わって、僕のポテトに手を伸ばした神野がぴくりとこちらを見る。 その唇から小さな溜息が漏れた。 「お前が人に気ぃ遣いすぎなだけだろ。バーーカ」  バとカの間をわざわざ強調するところに悪意を感じたけれど、神野はお構いなしに続ける。 「したくもないことに神経使うのもったいねーだろ。俺は、好きなことのために時間を使いたいだけなんだよ。愛想振りまいて自分に嘘ついて、好きでもないやつに気に入られても全然嬉しくねーよ」  苛立ったように一息にそう言うと、そっぽを向いてしまう。本当に、呆れるくらい自分勝手な言い草だ。 けれど神野の言葉は不思議なほど、心にすとんと落ちてきた。 「……ごめん」 「何謝ってんだよ。ハルも俺のこと自己中だのワガママだの思ってんだろ。別にいいけど」 「あはは。うん、ちょっと思ってる」 「……」 「でもさ。神野のそういうところ、結構好きだよ」  瞬間、神野が弾かれたように目を見開いて僕を見た。珍しく顔が赤い。そんな予想外の反応をされると、口にした僕の方が照れくさくなる。 「……俺にまで気ぃ遣うなよ」 「本当だよ」  気遣ったわけじゃなくて、本当にそう思った。確かに口も悪いしとっつきにくいけど、自由で、人の目なんて気にしてなくて、いつも自分の気持ちに正直だ。 だから僕も、そんな神野の前でだけは取り繕わない本当の僕でいられるような気がしてたんだ。  そして思う。一緒に過ごすこの何てことない時間は、神野の「好きなこと」に入ってるんだろうか。 そうだとしたら、嬉しいようなむず痒いような、妙な気持ちだった。

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