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神野がバイトで先に帰った日だったか、帰り道で同じクラスの榎戸 と一緒になった。
恰幅のいい体に四角い顔が乗った榎戸は、家も近くて母親同士も仲の良い幼なじみみたいなものだ。
前はよく一緒に帰っていたけれど、最近神野といる時間が長いから随分久しぶりな気がした。
「そういえば須和、最近神野に懐かれてるな」
他愛もない話の途中で、榎戸は黒縁の眼鏡を押し上げるとにやりと笑う。
「懐かれてるって…野良犬かよ。好きなバンドが一緒で話が合ったんだよ」
「へー、意外だな。あいつがあんなに人と話してるの初めて見たぜ? 1年の時も同じクラスだったけど、結構浮いてたしさ」
「そうなんだ……」
「同じ中学の奴の話では前は明るい奴だったんだってよ。割と勉強できて運動できて、女子にも人気みたいな」
「は!?」
僕の素っ頓狂な声に榎戸は大声で笑った。
「想像つかないよなー。何があったのかは知らんけど、人って変わるもんだなー」
そういうと、榎戸は今一番好きだというアイドルグループの推しの話をはじめた。相槌を打ちながら僕は上の空だった。
クラスメイトに囲まれたにこやかな神野。全然想像できない。
人違いじゃないとすれば、何をどうしたらそんな少年があの変わり者になったんだろう。どんなに考えても、その時の僕には全然わからなかった。
◇◇◇
駅前の交差点にさしかかって赤信号で足を止める。
イヤホンから流れてきたのは、ダストマンズの『Don’t Leave Me Alone』だ。
色褪せない日々なんてものがあるとしたら真っ先に、あの頃神野と過ごした毎日を思い出す。
空気みたいに隣にいるのが当たり前で、何を話しても、何も話さなくたって楽しかった。
本当に楽しかったんだ。
あの日までは。
◇◇◇
高校を卒業して地元を離れて、僕は神奈川、神野は東京の大学に進学した。
といってもお互い電車で30分もかからない距離に住んでいたのだけど。
付き合いは相変わらずで、大学生活の合間にライブに行ったり遊んだり。
神野は大学の変わった奴の話とか、友達になった奴の話をよくするようになった。
窮屈そうだった高校生活に比べて自由を満喫している様子の神野にほっとしたけれど、置いて行かれるようで少し寂しい気もしてた。
そして、あの日。ちょうど一年前、大学2年の終わりの春休みのこと。
その日は東京のライブハウスに行った帰りに、神野のアパートに泊めてもらうことになっていた。
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