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第6話

「ん……」 ジオラルドが目を開けると、そこはいつもの自室ではなく、自分が監禁されている部屋であった。 恐らく、城の教会の地下室。 こんな地下室があるなんて知らなかった。 ベッドは真っ白なシーツが敷かれているが、昨日はここでセイブルに組み敷かれ、犯された。 何か蜜のような薬を無理やり飲まされ、体の自由を奪われた。 あの時の獣のようなセイブルを思い出すと、今でも体が震えてしまう。 「何で、あんなこと……」 セイブルは自分の親衛隊の隊長だ。 それなのに、あんな裏切るような行為を……。 『ジオラルド様……私の女神……どうかご慈悲を』 とろんとしたセイブルの瞳はいつもの雄々しい瞳ではなく、熱にうかされたような瞳をしていた。 力も強く、のしかかられた時、押し返したくてもびくともしなかった。 あっという間に服を脱がされ、ジオラルドの閉じた蕾はセイブルの太い指でこじ開けられ、さらに太いモノを挿入された。 初めて男を受け入れ、体の痛みよりも心の痛みの方が強く、自分の弱さに情けなさを感じてしまう。 薬のせいか、痛みも少なく、快感が勝ったことも罪悪感のひとつの原因である。 (僕は……男で気持ちよくなったんじゃない!!全部あの薬のせいだ……) 「おや、目を覚まされましたか?」 黒衣の男……シュバルツが天蓋ベッドのカーテンを開けた。 全部この男のせいだ。 「……泣いていたのですか?涙の跡が……」 シュバルツがジオラルドの頬に触れようとした時、ジオラルドはその手を払い除けた。 「汚い手で触るな……!僕は帝国の王子だぞ!!このような辱め……許されると思っているのか……!!」 「帝国の王子か……勿論、このようなこと普通では許されません。死刑を言い渡されてもおかしくないでしょう。けれど、殿下は今、帝国がどのような状態かお分かりですか?」 「……どういう意味だ」 「キオ公国がリンドル帝国に攻め込みました。お兄様たちはキオ公国で囚われ……皇帝陛下は崩御されました」 「崩、御……?」 お兄様たちが囚われ、お父様は亡くなった……? そんな……! 「お父様は……殺されたの……?」 シュバルツはゆっくりと首を横に振った。 「いいえ。寿命が尽きたのです」 ジオラルドは、はぁ……と息をついた。 むごい殺され方をしたのではなかった……それだけが救いだった。 「穏やかなお顔をされていました。リンドル帝国の最後を見ることはなく、本当に……」 「最後などとふざけたことを言うなっ!!」 リンドル帝国が終わるだなんて……そんなこと、そんなふざけたこと……。 ジオラルドはベッドから抜け出し、扉の方へ走り出そうとするも、先程の激しい情事に腰が抜けてしまい、ぺたりと座り込んでしまう。 ジオラルドの小さな体をシュバルツが抱える。 「無理をなさられないように」 「……っ誰のせいで、こんな目に!」 「これから、陛下のご遺体はキオ公国に引き渡されます」 「どうして……!?先祖代々の墓に入れないということ……?」 「皇帝陛下と言えども、敵国の皇帝。一時的に身柄を引き渡すだけです。何日か経てばここに戻され、墓に入れられます」 シュバルツの黒い瞳はどこまでも深く、何もかも飲み込んでしまうかのような、底知れぬ恐ろしさがあった。 「シュバルツ、お前は何故、そんなにも落ち着いているんだ……?それに、どうしてお父様の身柄が何日かで戻ってくることなど知っているのだ?」 頬面で隠れた顔は表情が読めないが、薄く笑ったようにシュバルツは目を細めた。 「私はキオ公国から送られたスパイ、だからですよ」 「スパイ……?」 シュバルツはジオラルドの体をそっとベッドに乗せる。 「ここから出るのは得策ではありません。もしここから逃げ出そうとしたら、キオ公国の兵隊に捕えられ……いや、その前にアレに捕まるでしょうね」 シュバルツは扉を開けると、大きな影が現れた。 囚人服のような粗末な服、重そうな鉄の首輪と手錠をかけられた大男。 「セイブル……」 「ここを出ようとしたら、彼に捕まってしまう。お気をつけを。彼はあなたを本気で『女神』の化身だと思い込んでいますから」 瞳はどこを見ているのか分からないような胡乱な目をしている。 ジオラルドに仕えてきたセイブルとは違う。 全く違う生き物のような……。 「今は薬で大人しくしてありますが、薬が切れると、またあなたを犯してしまうかもしれません。彼をあまり刺激しないように」 まるで医者のような物言いで、それだけ話すと部屋から出ていってしまった。 セイブルは鎖に繋がれたまま、ぼーっと扉の傍に立ち尽くしている。 (薬って……まさか、僕が飲まされた薬?) 『薬が切れると、またあなたを犯してしまうかもしれません』 昨晩、押し倒され、犯され尽くしたことを思い出した。 怖い……けど、セイブルをそのままにはしておけない。 「あの……セイブル?」 ベッドの上からセイブルに声をかける。 ぼーっとした表情でセイブルはこちらを見ると、「ジオラルド様……」と小さな声が聞こえた。 ゆっくりとジオラルドに近づくセイブルはどこか弱々しい。 「セイブル……一体どうしたの?何があったの?」 「何が……私はあなたを守ろうと……シュバルツ様が女神であるあなたを殺そうとする輩がいると……」 「僕を殺す……?」 「あなたを守るためにここに連れてきなさいと……シュバルツ様が言ったのです……」 恍惚の表情で、ジオラルドの手をとる。 褒めて欲しいと言わんばかりに。 ジオラルドはセイブルが気の毒だと思った。 あんなに強いセイブルがこんなにも弱るなんて……シュバルツが何を考えているのかジオラルドはまだ分かりかねていた。

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