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第5話

「そして?  良いわよ、遠慮せずに言って頂戴。  私はリョウにそういうことも含めて聞きたかったのよ。だからここに連れて来たのだもの」  詩織莉さんのつけまつ毛のような長い睫毛が深刻そうな感じで扇のように瞬いている。  他の観客のような――隣の席のジャニー○系の彼は、マッチョな男性の隆々としたモノに熱い視線を注いではいた――これから始まるショーに期待しているとか劣情を催したという感じでもない。  そしてオレは女性に一切恋愛感情を持たないタイプの人間だった。この世界に飛び込んだ当初こそは「枕」もしていたのも事実だったが、オレの欲望ではなくて、女性を愉しませることだけを考えていた。そして肝心のモノは目の前の女性ではなくて、頭の中のイメージで大きくさせていた。  詩織莉さんがウチの店でオレを指名してくれたのも「こういうショー」を観ることの方が実際にベッドを共にするよりも好きだという共通点が有ったからだ。  国民的知名度を誇る詩織莉さんと「そういう仲」になりたい男は山のように居るだろうが――そして、本人の口からハッキリ聞いたわけではないものの――「そういう行為」の実践にむしろ嫌悪感を抱いているような気がした。 「もしかしたら、初めてなのかも――」  舞台の上では筋骨隆々の男が、ユキの唇と自分の唇を重ねては派手な音を立てながら二つの乳首を指で捻っている。  そのローションにまみれて光る小さな乳首が太い指でこねくり回される度に、ユキの白く細い腹部がヒクリヒクリと波打っていた。 「胸でも感じているようだけれど……?」  独特の熱気に包まれた会場の雰囲気とは裏腹に詩織莉さんは何だか評論家とか研究者のような眼差しと口調だった。 「あれは、多分くすぐったいのを我慢しているだけですよ。  男性の場合も乳首で感じるようになりますが……、感じているなら素肌が紅色に染まります。  あんなに白くて薄い肌なのですから直ぐに分かります」  アイパッドのカメラの部分をタップして、色々なアングルを確かめてみた。  ローションで濡れそぼった紅い穴を大きくして詩織莉さんへと示した。  舞台の上ではジュバンめいた下の紅い絹が白い肌を滑り落ちて行く様子が扇情的だった。 「何だ!縮んでいるじゃないのよっ!!立たせてやりなさいよっ!!」  二丁目のお姐さんといった感じの「男性」が口調とは裏腹に野太い声でヤジっている。  舞台のマッチョ男はローションのボトルから手にたっぷりと液体を垂らして、先端からくびれにかけて早い動きで指を動かしている。 「あっ……あっ……」  ユキの可憐な声が切なげに響いている。グチュグチュとシャカシャカが混じりあった音と共に。 「気持ち良いんだろ?感じているのかっ!?」  マッチョな男性が掌全体でユキの立ち上がった小ぶりのモノの全体を扱いている。ついでに二つの果物めいたモノも。 「気持ち……良いっ……。イイよおっ……」  ユキの肌が薄紅色に上気している。  確かに、急所を刺激されると誰でも感じるだろう、男だったら。 「詩織莉さん、見て下さい。この部分です」  マイクを通した擦過音とユキの甘く濡れた喘ぎ声が会場の熱気を煽っていく感じだった。 「何?どういうこと?可愛いお尻の穴じゃない……」  クルボアジェのグラスを水のようにすいと飲みながら詩織莉さんがタブレットを覗き込んだ。 「こちらを使い慣れている男性なら、前を刺激されてあんな状態に追い込まれた場合こちらも何らかの反応を示すものなのです。  それがまるっきり反応していませんよね」  詩織莉さんが納得した感じで頷いたかと思うとタブレットの画面に男の指が映り込んだ。  ローションの滑りを借りてツプンと中に挿っていく。  紅い場所にぬらぬらと光る大きな指が入って行く様子は可憐ともグロテスクとも見る者の主観によって違うだろうが。 「ああっ…ああっ……」  ユキの細い眉が苦しげに顰められている。ただ、快楽と苦痛の表情は良く似ているので会場の人達は前者だと思っているような感じだった。 「やはり、この子は慣れてないです。  こちらの穴を使う時には、開こうとする意思がなければ上手く行かないものなのです。  ほら、むしろ閉じようとしていますよね?」  詩織莉さんは、オレの顔を見て頷いた後に舞台の方へと視線を向けた。 「指だけであんなに痛がっているのに、あんな大きいモノを挿れられたら、……ユキって子……どうなるのかしら」  決して興味本位でないような声と表情だった。むしろ心の底から心配しているような感じだった。  女性でもそちらの穴は持っているので――使ったことが有るかないかの違いはあるだろうが――あんなイチモツを入れられる感覚は分かるのだろう。 「無理やり挿れると、穴の中は筋肉らしいので切れてしまいます。そして、治りも物凄く遅いらしいです……」  オレだってプライベートの時に男と遊ぶ。深い仲になった元恋人にそういう話しは聞いたことがある。 「筋肉……そうね。確かに治りは遅い上に、用を足すのも……」  詩織莉さんはレディらしく――と言っても映画の中でしか知らない男たちはこちらの方が『詩織莉』のイメージだろう――恥じらいを浮かべながら少し笑ったが、直ぐに真顔に戻った。 「ああっ……ダメっ……!!」  ユキの切実な悲鳴が会場内の熱気を更に煽っている。 「ダメじゃないだろっ!!もっとだろう??乳首もオチン○も良い感じに立ててよ!!」  マッチョな男は多分ショートして場を盛り上げようとしているのだろう、いやもしかすると私的な興奮もあったかも知れないが。  二本の指が情け容赦ない感じで小さな紅い穴に挿っていく。 「こっちでも、良い思いさせてやるからっ」  ローションの濡れた音と共にユキの立ち上がったモノが再び力を失っていく。 「ああっ……ダメっ……」  マイク越しの悲痛な声と、ユキの白い頬に涙が滴っている。 「何だか、ゴーカンショーみたいで良いわね。ああいう綺麗な子があんな大きなモノで無理やりとか、ス・テ・キっ!!」  そんな声を上げるギャラリーまで居るのは、皆がこういうショーに期待しているからだろう。   その時、詩織莉さんが決然とした眼差しでオレの顔を見た。

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