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第6話

「リョウ、お願いが有るのだけれど、このショーは飛び入り歓迎だったわよね。  始めてならば病気とかの心配もないし、それに…ヒデ……」  ヒデ?と内心怪訝に思った。  詩織莉さんの「お願い」とは多分、あの舞台に上がってマッチョな巨体に相応しい隆々としたモノを穴に挿れるのではなくて、オレのモノの方が良いとか、優しく扱ってくれるという判断なのだろう、多分。  ただ、詩織莉さんとは二丁目のこういうショーにアフターなどで付き合ったこともある。  今はこの界隈では「宵の口」という感じなので、ユキが慣れていた場合は「普通」のショーだった。  それに対して、ウチの店が終わってからのショーはもっと過激だ。それこそ未経験の――もしかしたら18歳未満かも知れない――男の子が無理やり凌辱とかのショーすら有った。そういうのにも詩織莉さんは平然とした感じで見入っていた。  それなのに、今夜の詩織莉さんは何だかユキという青年に思い入れでもあるような感じだった。 「それは構いませんが……。ただ、手持ちのお金で大丈夫かどうかという問題が有ります」  太客の場合のアフターでは時々こちらが勘定を持つということもあるし、オレの派閥全員で高級焼き肉とかを食べに行く時には当然オレの奢りだ。新人君などは――まあ中には若くない人間も混ざってはいたが――遠慮せずに食べさせたり呑ませたりするのがオレの流儀だった――だからそれなりの現金は財布に有る。  ただ、卓上のタブレットを見ると「参加希望欄」の金額がそれこそ、二倍の勢いで上がって行っている。  10万円の次は20万円、その次は40万円といった具合に。 「ああっ……ダメっ……。あっ…あっ……んっ…・・・」  ユキの悲痛な声と共に、三本の指がローションの音を大きく立てて会場に響いた。  カメラのアイコンをタップすると、三本の指が途中までしか挿っていないのに、それでもキツキツというか、紅色に濡れた穴が今にも裂けそうな感じで広げられていた。  やはり初めてだったのだな……と思いつつ、このショーの主催者は舞台に居るマッチョな巨根相手に「本番ショー」をさせる積もりは無いのではないかとも考えてしまう。  893の組織が特殊詐欺など一般人からお金を巻き上げていたり、ウチの店のような水商売の店から色々な名目を付けてお金を取っていたりする行為は警察も目を光らせているらしい。  現にウチの店にも警官が現れて「そういうショバ代とか『みかじめ料』をその筋の人間に要求されたら即座に電話して欲しい」とご丁寧に所轄の警察の電話番号を書いた小冊子まで置いていくということまで有ったのだから。  舞台の上では、先程の銀行員のようなスーツを着た男がマッチョ男の目配せに従って何かを持って来ていた。 「こっちのヤツは催淫剤入りだ。  塗ると、ソコを擦って欲しくて欲しくて堪らなくなるんだぜ。それに効果は早い優れものだ。  まずは可愛い乳首からだな……」  位置を巧みに変えて、舌全体を使ってねっとりと愛撫しつつ、もう片方に催淫剤入りのローションを垂らしている。 「ああっ……」  催淫剤入りとかいうローションでたっぷりと濡らされた乳首を弾くと先程とは違って甘く高い声が艶やかに会場内に響き渡っている。 「リョウの言う通りだわね……。素肌が紅くなってきているわ。  それはそうと、リョウが舞台に上がってくれないかしらという私のオファーは?  お金は当然私が支払うわ。  だって、私がお願いしたことなのだからそれが筋でしょう……」  詩織莉さんが、美形のボーイを――普段はこのゲイバーで「ホステス」として働いているような感じだ。しかもナンバー1とか2レベルの――呼び止めて、ヘンリーⅣをオーダーしている。  最近は「そういう組織」も隠れ蓑が巧妙化していると聞いているので、多分この美形のスタッフは経営者の素性までは知っている可能性は少ない。  そして、この「本番ショー」は、マッチョ男とユキの絡みを見せつけておいて客の興奮を高めておいて、ユキを高値で落札させて現金収入を得るという仕組みの可能性が極めて高い。 「しかし、500万円にまで値段が上がっていますよ……」 「ああっ……んっ……。ひっ……」   ユキの穴に埋め込まれていた指が引き抜かれて安堵めいた嬌声を零した後に、乳首に塗った方のローションがユキの桃尻の狭間と男の指にたっぷりと垂らされている。  そして、指を一本だけ埋め込まれていくのも、扇情的だった。 「あら、800万円になったわね。  ここに数字をタップして入れれば良いのでしょう?」  詩織莉さんの真っ赤なルビーとダイアの首飾りに合せた爪もダイアの煌めきを放っていた。  細く白い指が動いている。  そのダイアに負けない感じの存在感を誇るヘンリーⅣのボトルが運ばれて来た。  画面を見ると1千万円という数字が「お客様の入金額  現在の最高値です」と表示されている。 「おおっと、テーブルナンバー2番の方から1千万の提示を頂きました。  妥当な金額のようですので、あと五分で締め切らせて頂きます」  司会者と思しき、先程開演の挨拶をした男が舞台の袖に出て来ていた。満面の笑みを浮かべているのは、恐らく想定していた金額を遥かに上回ったからだろう。 「ああっ……。ダメっ……」  ユキの穴に二本の指がほぼ全部埋まっている。 「ダメちゃないだろうっ……このインランがっ……。乳首をこんに立たせて愉しんでるんだろっ」  舞台の上では乳首を強く弾かれる度にユキの素肌が紅く染まっていく。そして、先程よりも「多少は」指の動きもスムーズになっている。  何だか野太り太い指がユキの紅い穴に挿っているのは、農民に犯される若様といった風情だった。 「本当にいいのですか?」  こういう店では――というかオークション形式では普通だろうが――入札してそれ以上の値段がなければ支払い義務が生じる。  オレは楽しませて貰えるので良いといえばイイのだが、詩織莉さんにメリットはないハズだ。 「いいわよ。だって」  綺麗にルージュを塗った詩織莉さんがヘンリーⅣのボトルを手に取ってオレ用のグラスに注いでくれた。ボトルのダイアよりも詩織莉さんのネックレスが神秘的な光りを放っていた。  「だって」の次の言葉は何だろう。

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