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第9話
ユキの声と穴から漏れる淫らな音が会場内の淫らな熱を煽っているのが背中越しにも分かった。
「一度出した方が良い。そうなったら、身体の力が抜けることは知っているだろう?その時に思いっきり穴を開け。分かったな?」
唇を離して、先端部分を指で丸く円を描きながらいったん立ち上がって派手なリップ音を立てながらその合間に告げた。
「んんっ……」
艶やかな喘ぎ声を零しながらも、ユキは眼差しで分かったと伝えてきた。
この子はかなり賢いのではないかと先程思っていたことをまた思い返した。
オレの職場では、トーク力が必須だし――しかも客層が詩織莉さんのような女優や芸能人、そして会社経営者などがいわゆる太客の関係上、上品さも求められる――それにも関わらず「本来の使い方」とか言ったら「ああウン〇する時みたいにっすか?」と返す人間が居るのも事実だった。まあ、そういうキャストはウチの店では長くは持たずに営業時間が12時から朝の5時までの店に替わるのが常だったが。そういう店は基本的にデリ嬢とか泡嬢が太客なので、あけすけな言葉遣いの方が好まれる傾向にあったので。
そんなことを考えていたのは、ユキの上気した和風かつ儚げな顔立ちが薄紅色に染まって、桜の花の初々しさと妖艶さの両方を湛えていたし、紅色の小さな乳首が可愛らしく天を向いていたり、それ以上に可憐なユキの欲望も先端からダイアモンドのような雫をブラ先色の蘭の花に零したりしていたからだった。
「ああっ……いちゃうっ……」
前立腺を強く擦ると一際艶やかな声を高く上げて……赤紫の蘭の花の上に白い雫を放っていた。
舞台に上がった時には着衣を全て脱ぐ気はなかったのだが、このユキの「初めて」を貰うには、その方が良いような気がして服を遠くに放り投げた。蘭の花の上は、ユキの「初めて」専用のベッド代わりにしたかったので、敢えてそこを避けた。
淫らで熱い歓声と嘆声が会場内を支配している。
その中で唯一女王様のように凛とした涼しげな佇まいなのは詩織莉さんだった。
少しはユキを休ませようと、一糸まとわぬ自分の体を一回転させた。
枕営業はしていない。しかし、エステ経営者とか最近流行りのダイエットをメインとしたエステ&ジムの経営者などは男性のスーツの上からでも腹筋の割れ具合まで分かるという客もいる。だから時間を決めてジムに通って身体を絞っているので脱ぐことに躊躇いはなかった。それに、新人時代に枕をしていた頃にオレの息子を見た女性は皆目を丸くして「大きい」と言ってくれたし、店やジムのロッカールームで全裸になる機会が割と有る。
その時には当然同性しか居ないが、皆畏敬とか羨望の眼差しで見たり褒めたりしてくれた。
「会場の皆様、取り敢えず幕間ということで、構いませんか?何しろ、今宵のメインイベントのユキのショー、色々な意味で大盛況でした。その上、ユキをイカせた勇者――しかもこの男らしく引き締まった見事な身体」
司会者が言葉を意味有り気に言葉を切ると「キャー!ス・テ・キ~だわぁ。抱かれたい」
などの「だみ声」があちこちから飛んできた。
「失礼ですが、そしてお差し支えがなければで構いませんので、お名前とご職業を教えて頂ければ幸いです」
一瞬迷って詩織莉さんへと視線を当てた。彼女は満足そうに笑みを浮かべて大袈裟な感じで頷いた。その綺麗な仕草に合わせてダイアとルビーのネックレスが艶やかで純粋な煌めきを放った。
といっても詩織莉さんは酔っているわけではないだろう。オレも職業柄アルコールには強い方だが、詩織莉さんととことん呑んだらオレの方が先に潰れそうだと常々思っていた。
「東城リョウという源氏名でホストをしています。
こちらには女王様のお供で参りました」
舞台の上から一礼する、詩織莉さんの方を向いて。
「ほう、女王様の……。王妃様ではなくて……」
含みのある司会者の言葉を聞いて、勤めている店まで知られてしまったかな?と思った。別に知られても構わないが。というのも「ドラレーヌ」は「王妃」という意味のフランス語だ。その程度は大学の時に習ったので、入店する前から知っていたが。そして、オレの店は男性客禁止という決まりがあった。先ほどのダミ声の「お姐さん」が客として入店することは出来ない。かなりの金額を使って手術を重ねれば別だが、ざっとみまわしたところ、千万単位では多分無理で、億単位のお金が必要だろう。そこまで使って来るような人間は居ないと信じたい。
「はい、女王様のお供で参りましたが?」
すると、詩織莉さんにスポットが当たった。多分、お金を出したのが彼女だったからだろう。とはいえ、今の時点で半分は返却されるハズだが。
「まさしく映画界の女王と呼ばれている御方ですね。素晴らしいゲストです」
「え?もしかして……」とかいう声が聞こえてきたものの、詩織莉さんはいわゆる神秘のベールと映画界の二重のカーテンに守られている女優なので、身元を知られても週刊誌沙汰にはならない不思議な人だ。
そこいらのアイドルだったら「ホストクラブに入り浸っている」という報道がなされるとイメージダウンになって消えていくのがオチだが。
「女王様は特別な存在ですので、そこは触れることなくお客様には名刺の提出をお願い致します。
名刺を出せない場合は、お手元のタブレットに必要事項の入力をお願い致します」
口調は丁寧だったものの、有無を言わさない感じだった。
「――躊躇っていらっしゃるお客様もおいでのようですが、その方は『二次会』の『お愉しみ』への参加資格を失ってしまいますので悪しからずご了承ください。二分以内です」
「二次会」「お愉しみ」と発音した時の司会者は淫猥な笑みと口調だった。
詩織莉さんだけは不思議そうな表情を浮かべていた。このショーのことをどこかで聞いて来たのは間違いのないことだろう。開始時間まで知っていたのだから。
しかし、舞台の上から見ると女性は詩織莉さん一人だった。
「お愉しみ」とやらはどうやら男性のみが参加出来るような感じだった。
会場には、早いテンポの曲が大音量で流れている。
オレの黒歴史の中でもこの雰囲気に似た空間は存在した。
どうやら、ユキとの本番ショーがメインではないらしいなと思いつつ、客たちが必死にタブレットに向かっているのを横目で見ながらユキの方へと歩み寄った。
もう大丈夫だろうと思いながら。
このユキという青年の穴の中を、オレの最も敏感な場所で感じたい、思いっきり貫きたいという抑えきれない欲望を滾らせながら。
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