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第14話
「リョウさんとなら……怖くないから、大丈夫です。それにコツまで教えて下さって有難うございます。僕があのマッチョな人の……
ああっ……んっ……乳首……を……後ろから……ギュって……摘まんで……指で転がして」
相手構わずの行為に惑溺している人間は2割程度に減っていた。その他の客はタブレットの画面を眺めたり、タップしたりしながら舞台を見ている。
ユキが言葉遣いどころか、声の調子まで艶めかしく濡れた蘭の花の風情に似た感じに変えたのは舞台の上を注目する人間が増えたからに違いない。
ユキの容姿は好ましいというレベルではあったが女性客が夢見がちに話す「この人こそ運命の人だ!と思えるような稲妻に打たれたようになる人って居ないのよね」というほどのレベルではない。
しかし、ユキの場合は、身体の相性が良かったことと何よりも彼の聡明さが気に入っている。受け答えである程度の賢さは分かっていたが、その後もオレが密かに舌を巻くような当意即妙の反応――会話でもそうだったし、本番の最中にも身体の動きを脳でコントロールしている感じだった。
ユキの初めての穴は――あいにくオレにソッチを使った経験はない――マッチョ男の大きさとか猛々しさには恐怖の余り強張っていたのも見ていた。しかし、オレが口で教えたらすぐにその通りに出来たというのは、ある意味驚きだった。
人間、頭で分かっていてもその通りに出来ることの方が少ない上に、穴を大きなもので抜き差しされるという経験は一生知らない男の――いや女性もそうだろうが――方が多い。
それが出来るのはよほど頭脳と身体の連携が取れているのだろう。そういう点に惹かれてしまう。
だから一回きりだと思っていた本番ショーの二幕まで付き合おうと思ってしまった。
しかもお持ち帰りも出来るという流れになっている。まあ、このショー自体が流動的というかその場のノリと勢いで決めているような感じだったので別の展開が有るかも知れないが。
「あっ……んっ、乳首……気持ちイイっ……。ねぇ……。乱暴に抱いてくれるんでしょ?
だったらさ、ちゃんとした服を着たユキをさ、無理やり脱がせて……。
破いてもイイしっ……ズボンは切ってもいいよっ……。
あの黒いレースの人みたいに……」
ユキの薄紅色の華奢な指が肝心な場所だけがバカリと開いた黒いレースの服を着た青年を――ちなみにその彼は恰幅の良い男性の股間に跨って腰を上下に激しく揺すりながら二本の手で二人の男性の昂ぶったモノを擦っている上に唇を大きく開いて口でも男性を慰めているという、ある意味物凄い奉仕をしていた――指ではなくて手全体を使って指している。
指だけで人を特定させることが失礼に当たるということを知っているのだろう。
もしかしてユキの「伝説」というのは、目の前で繰り広げられているような行為を一切せずに人を惑わせるとかそういう意味なのだろうか?と思ってしまった。
「ユキさんの要望に賛成の方は、タブレットのホーム画面に「賛成・反対」と書いた箇所が御座いますので、そちらの方に奮ってご投票ください。
なお、落札値が文字通りうなぎ上りになっており、システムがダウンしそうなのでもう少々お待ちください。誠に申し訳ありませんがご了承ください」
司会者もタブレットを見て額の汗を拭っていたので、多分本番ショーの第二幕に参加は出来ないものの、見学をしたいという人間が多いのだろう。
ユキの言う通りに乳首を摘まんでは転がすと、白い蘭の花のため息のような嬌声が花の上に零れるような感じだった。
「賛成が三分の二を超えましたので、年相応の服を用意させましょう。
え?そんな在庫はない……?それは困ったな……。スーツならお前達のを脱がせれば良いだけだが……」
黒服の男にヘンリーⅣボトルのダイアを煌めかせながらクリスタルの透明なグラスにお酒を注がせている。
そして彼女が身じろぎする度にルビーが燦然たる光りを放っている。
「あら、主役の二人は中座しても構わないでしょ?近くに学生が着るような服が売っている『ジーユー』はまだ開いているわよ。
前座と言うわけではないけれども――それに集計作業も遅れているらしいのだから――誰かがその場しのぎのショーを披露すれば良いだけじゃないかしら」
女王様然とした重みのある凛とした口調が会場の淫らな雰囲気を緩和させていくようだった。
「シオリお姉さま有難う……」
ユキが詩織莉さんに届く程度の声量で言っていた。いかにも親しげな感じで。
やはりこの二人は何か関係があるのだろうと確信めいたモノを抱いてしまう。
「ゲントルメンの皆様、舞台に上がって良いと仰る方は是非お願い致します。
もちろん、お代金の方はお勉強させて頂きます。
主役は二人のカップルですから、出来れば複数でお愉しみ下さる男性を……」
この淫らな会場の淫靡な空気ではなくて、外気を吸えるのは有り難い。しかもユキと一緒に買い物に行けるかも知れないのも嬉しかった。
ただ、ユキは「ジュバン」のような衣装を纏っていたが、そんなモノで外には行けない。
ユキの私服はないのだろうか?とユキの凛とした眼差しと合せると、困った表情を浮かべていた。
「服の問題?そんなの、貴方が脱げば良いでしょう?ワイシャツとスラックスだけで良いのだから」
詩織莉さんが事もなげな感じで一番下っ端と思われる銀行員のようなスーツを着た人間に指図をしている。
すると、魔法にかかったような感じで服を脱ぎ始めた。
――ユキとの関係もそうだが、詩織莉さんはこのバーでの先程の経済893風のサドっ気が有る人間に対しても遠慮させてしまう強い影響力を考えれば、リョウの知らない顔を詩織莉さんも持っているのだろう。
単なる女優してではなく。
まあ、多分その辺りのことも含めていずれ話してくれそうだ。
オレをここまで巻き込んでいるのだから。
真っ白なワイシャツを脱いでスラックスと共にユキに渡す男の背中には期待を裏切らない――いや、ある意味物凄く裏切っているような気がするが――モノが掘り込まれていた。
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