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第15話

 最近の893業界では、明らかにその筋だと分かる人の方が少ないと風のウワサに聞いたことがある。  例のサドっ気たっぷりの経済893などは多分身体のどこにも刺青など入っていないだろう。確かめたわけではもちろんないが。今は物凄く手慣れた感じでタブレットをタップしている。多分最高落札者になれるように頑張っているのだろう。  ただ、ユキにこの男は危険過ぎるので近付けないようにしないといけないなと強く思った。  それはさておき、こんな本番ショーに出るようなことは――オレだって初めてだったし、しかもそんな美味しい……いや、そんな機会に自分が立ちあえるとは思ってはいなかったものの、男の場合は割と服を脱ぐ機会は多い。ま、オレの職業が職業だけに従業員控室では下着一枚だけはそのままだが、ジーンズにポロシャツとかで出勤してくる人間がスーツに着替えることは割と良くある。  そういう場合遊びで入れたと思しきタトゥーくらいなら店では許されるが――ただ、その同僚曰く厳しいスポーツジムとか一流ホテルのプールでは断られることも有るので後悔しているとか――手のひらサイズ以上だとやはりマズイ。  こういう仕事ではなくても、スポーツジムやプールなどに行く人間はたくさん居るので「そういう筋」と思われないように刺青を入れないようにしているのが一般的だと聞いている。  ただ、ユキの白いワイシャツとスラックスを渡した男には猫としか思えない可愛さ満載の刺青が入っていて、そもそもの刺青の効果である「相手に威圧感を与える」どころか「笑いを誘う」効果しか与えていない。  ただ、表立って笑うわけにはいかず、無表情を貫き通したが。  ユキが大きめのスラックスに――最近の若者はダボっとした衣服を着ている人間も多いのでこの場では気になっても表通りではそれほど気にならないだろう――華奢な足を通したので、オレも服を着ようと思った。  ユキは詩織莉さんと何やらアイコンタクトを取っている。  言葉にしなくても意思は伝えられているようで。詩織莉さんが指図めいた視線を送って、ユキがそれに同意のような視線を送っている。  やはり、この二人には何かの関係が有りそうだった。顔立ちも似ている部分が多いし。 「舞台に上がれば、本当に勉強してくれるのかね……。三人じゃなくとも?」  タブレットの画面を見た美容整形外科の院長が――多分、この男の「名医然とした不敵な笑み」の大きな看板を見た都民は多いだろう――顔を引きつらせて発言している。 「あれはね、この店のスタッフを――例のマッチョだよ――割とカッコいい系のお兄さんが誘ってたでしょ。スタッフは別料金だからきっとその金額にビックリしたんだと思う」  ユキがこっそり教えてくれた。「勉強」という隠語はウチの店では使っていないし、そんなケチなことを言うお客さんも居ない優良店だが、意味だけは知っている。「値引きする」というほどのことだ。 「左様でございます。当店からの感謝の気持ちとしまして半額にさせて頂きますが……」  司会者はタブレットを見て先程よりもにこやかな感じを深めている。  多分、収益が想定以上になっているのだろう。 「二輪挿しというのを試してみたい。それはそんなに良いモノなのか?出来ればあの子と」  ――お金の問題ではなかったらしい。あの子と「指名」されたのは、今は黒いレースの着衣に真珠のような玉になったモノで飾っている、しかも茶色の綺麗な髪の毛にも白い飛沫を放って貰って行為に耽っている青年だった。元々肝心な部分は露出した服を着ていたのでこの店のスタッフなのだろうが、ユキとは違って根っからの好き者らしい。  今も大きめの乳首を二人の男に猫がミルクを舐めるような音で愛されていて、ほの紅い唇に男根を咥えては頬を萎ませて美味しそうにしゃぶっている。  尻の穴も服同様にぱっくりと好色そうに開いて男の熱い昂ぶりを深くまで銜えて腰を自ら揺らしている。 「あん……あんっ……ああっ」  男が深く穿つ度に本当に気持ち良さそうな声を上げている。 「口と咽喉を離すなよ!!こっちにも奉仕しろ」  熱の籠った声で叱責を飛ばしている男も欲情にぎらついた目をしていて、続きを促している。  口淫もどうやら巧みらしい。 「あん、ううんっ」  シャカシャカというには湿った音が加わったのはその青年が自分の息子を扱いていたからだった。 「ユリ、ご指名だ。大好きな二輪挿しを舞台の上で体験出来るぞ。一本目は、この紳士で、もう一本は……」  ユリという源氏名らしい。多分、ユキもそうだろうが……この店では「ユ」で始まる名前が与えられるのだろうか。 「ユウジさんが良い……な。だって――」  立ち上がった院長先生の持ち物はお世辞にも立派と言い難かったし、その上硬度にも問題がありそうだ。ユリという彼はその点が不満なのだろう、先程からジャニー○系の青年のお尻に挿れている大きさも硬さも「上級者向き」といった感じのモノをうっとりと眺めて紅い舌で唇を舐めた。その唇の端に付いていた白い液が舌に乗ったのを美味しそうに舐めているのも倒錯に満ちたこの空間に相応しい。  ユウジ……、やはりこの店のスタッフは「ユ」から始まっているのは確かなようだった。 「ご指名が有ったから行くね。あんっ……強く……指で摘ままないっでっ……。  どうせ、――ユキが戻ってきたら舞台から下ろされるんだからっ……その時に、また」  ユリはユキに対して嫉妬の――だろう、きっと――強い眼差しを送ってから、結合をあっさりと解いて、肝心な場所が良い感じに熟している様子を見せびらかしながら舞台の方へと歩み寄ってきた。優雅で淫らなシャムネコのような雰囲気で。 「ユキの全ては預かっておきます。しかも詩織莉さんという大切な御方が残られるのですからこのまま逃避行というのはご遠慮ください」  司会の男がリョウにしか聞こえない音量でドスの効いた声を出した。  オレが反応を窺おうと、敢えて無言でいた。 「ココに居る人間でも、両刀遣いは可能なスタッフもいれば、ユウジのように巨根の上にSの気が強いとか色々と。  まあ、その心配はユキと一緒なのでそんなにはしていません。貴方が逃げようと仰っても、ユキが止めるでしょうから」  含みのある言い方だった。そして「一応」身なりを整えたユキに確認するような感じのキツい眼差しを送っていた。詩織莉さんに対してはそれなりに丁重だったのは、彼女の性別はどうであれ大金を落とす上客だからだろうか?  舞台の上ではユリが白い胡蝶蘭の上に仰向けになって、M字に大きく開いた両脚の膝裏を自分の手で固定するように持っている。  そして一番高いユリのお尻の穴にはユウジと院長先生のある意味対照的なモノがズブズブと挿っていく。 「ああんっ……ああ……」  ユリの蠱惑に満ちた甘い声が上ずっている。その声を背中で聞きながら「STAFF ONLY」と書かれた扉を開けて、ユキの華奢な手を繋いだ。殺風景だが、現実感のある空気が漂っていて大きく息をした。  ユキも同じ気持ちだったらしく、可憐な色に染まった唇を大きく開いていた。  つい、キスを仕掛けてしまいそうになって内心慌てた。それに何から話せばいいのか分からない。  そう言えばオレが舞台の上を半ば呆れて見ていた時にユキは詩織莉さんの席に手招きされるがままに行っていた。何を話したのか気になってしまった。

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