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第16話
「詩織莉さんとはどういう関係なんだ?」
若干歩きにくそうな感じなのは、初めての体験をしたせいと、多分まだ開いている穴からオレの放った物が溢れて来ているからだろう。
その上、下着も着けていないので――その辺りはしっかりチェックしていた――股間にいつもの安定感がないのだろう。
ここは名だたるゲイの街なのでオレにも熱い視線は集まるが、ユキの和風な感じで整った顔や華奢な肢体から甘く薫る情事の痕跡をくゆらせているからなのだろうか。男たちの熱を帯びた視線があからさまに注がれていた。
「それはシオリお姉さまから聞いて欲しい。
ただ、僕から言えるのは、幼い頃から本当に可愛がって貰ったこととか、リョウさんのことを気に入っていることくらいかな?
やはり、詩織莉さんとユキには何らなの接点が有る。それにどことなく容姿が似ていることも考えると血縁か何かだろうか?ただ、ユキの言う取り詩織莉さんに聞くのが筋だろうと思って話題を変えた。本当は真っ先に聞きたかったが、オレにだって流石に遠慮というモノはある。
「身体は大丈夫か?ショーの時が正真正銘初めてだったのだろ?
ふらつくようならオレの肩でも腰でも掴めばいい。
ユキは先程とは異なった感じの純白の胡蝶蘭のように綺麗な笑みを浮かべた後に、オレの指を絡めてきた。
「ユウジさんとの時は恐怖しかなかったけど、リョウさんが優しくしてくれたし大丈夫だよ」
「さん」付けされるのが何となく嫌だった。
「リョウで良い。
そりゃあ、初体験は優しい方が良いだろう。
次の本番は多少手荒なことをしないといけないみたいだが、服を破られる時とか、挿れられる時には本気で抵抗した方が良いな。
相手構わず、お愉しみ中の客はともかく、純粋にショーを観たいと思っている客も居るので。
ただし、乱暴に抱いているように見せかけて実際はユキの綺麗なお尻やその穴には負担が掛からないようにするから」
ユキは店内で見せていた時よりも瑞々しい笑みを浮かべている。
「有難う。そうして貰えればとても嬉しい。
でも――キョウとなら手荒く抱いてくれてもイイよ。
シオリお姉さまとはお店の客とスタッフとして知り合って……。
アフターと言うのかな?と、店外デートでああいうプレイを鑑賞に行く仲だと聞いているんだけど?」
詩織莉さんとの関係を聞くなと言っていたユキだったが、それは彼女のプライベートとかそういったモノ限定らしかった。
「ああ、彼女は――オレがお客さんと『そういう関係』にならずにトーク力と――自分で言うのもなんだが――イケメン揃いのウチの店でも最高にカッコ良い!!という評判そして、アルコールが物凄く強い上に酔えばますます話しが面白くなるそうだ。だから気に入って貰っているのだろうな……。それにオレが欲張っていないところも気に入ったとか聞いた覚えは有る……」
実際はアルコールの呑み過ぎで意識が朦朧としていたのが常だったので、自分が話したことは全く覚えていない。
「オレがナンバー1で居られるのも詩織莉さんが事もなげにお金を遣ってくれる側面は実際でかい」
ユキは興味深そうな表情でオレの顔を見上げて来た。
「リョウ――さんのトーク力……具体的にどんなの?誕生日には何でも欲しいものが貰えるって何かで読んだんだけど……」
多分ユキは先程の恐怖――ユージだかのあんな巨大な息子を見たのだから尚更恐怖感があったのだろう。強引に話題を変えるような雰囲気だった。
「まあ、『誕生日プレゼントは何が欲しい?』とたくさんの客に聞かれる。
同僚だとブランド物のスーツとか、1千万超えの時計とかをその客が払える範囲でリクエストしているが、オレは『何でも良い。そういうのは気持ちだけで嬉しいから。たださ、北千住の土地は欲しいなとは思っている』とか言っている」
ユキが初めて心の底から可笑しそうな感じで笑っている。
その風情は舞台に飾られていた純白の胡蝶蘭に似てとても綺麗だった。
ちなみに詩織莉さんも胡蝶蘭を彷彿とさせる美貌だったが、どちらかと言えば紫色の花の風情だった。
「北千住って……。何か高齢者の街というか……。何かナンバー1ホストが欲しがる土地のような感じがしないな。六本木とか赤坂なら皆がリクエストしそうだけれど。土地単価も物凄い上に、そんな場所のタワーマンションとかに住んでいると大きなエントランスロビーに付いているカフェめいたところで営業活動が出来るから一石二鳥だと思うんだけれど」
ユキの口から――どう見ても未成年といった感じだった――「営業」という社会人用語が出て来ることに驚いた。まあ、最近の大学生はオレ達の頃と違って怪しげなマルチ商法とか情報商材を売るとかいう「ビジネス」に熱心だと読んだ覚えが有る。ユキが大学生かどうかはまだ分からないが。
繋いだ指も外を歩いている――周りには酔った客しかいない上にこの界隈の事情に通じているのか口笛とか「お兄さん達お似合いだっ!!」とかの野次は飛んで来るもののっそれ以上の実害はなかった。
ただ、ユキとオレのどちらかを穴が空くほど眺めている人間は割といたが。口をポカンと開けて。
「そこが付け目というか。何でも北千住の地価が騰がっているという記事は愛読しているニッケイで知った。
そして北千住から連想されるのはユキの考え通りで、笑いを取ることが出来る上に地価の話にも持っていける。
詩織莉さんは別だが、オレの客には女性経営者もたくさん居るので、ニッケイの社長就任とかのお知らせ欄なんて必読だし。
そういうトーク力のせいで詩織莉さんにも気に入られている。
だからだと思うが、二丁目のああいう店とかでのショーは何回も行ったことがある。
しかし、彼女の好み――もちろん観る側の立場だが――オレとユキがさっきまでしていたショーよりもユリさんだっけ?ああいう過激な方が好みだし、オレ達の二回目のショーのように無理やりとかいうシュチュエーションが好きみたいだ」
今考えると、彼女が最高落札者だったので「一回目からそういう趣向にして欲しい」とかマッチョで息子も凶暴な大きさと硬さを誇るユージだかユウジだかに、それこそ無理やりユキの初めての穴を血まみれになるまでとかいう要望もすんなり通ったような気がする。
それなのに、オレに「ユキは感じていると思う?」とか「痛くないのかしら」という心配そうな眼差しで聞いたり見たりいた。
その差は一体なぜなのだろう?謎がどんどん増えて行く。いずれはユキや詩織莉さんに聞ければ良いなと思った。
何気なくユキの顔を覗き込むと、沈痛な感じの表情を浮かべていた。北千住の話はウケなかったのかも知れないが、多分、他にも理由が有るハズだ。
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