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第17話

「ああ、そういうトークをすればいいのかぁ。  やっぱりすごいな、リョウって。流石は僕でも知っているナンバー1ホストだ……これから色々と教えて欲しい、な」  普通の社会人だって――技術職とかそういう他人と接触しない職種は別だろうが――それなりの雑談力は有った方が良いことは分かるが、ユキはその「トーク」をどこでする積もりなのか妙に気になった。  そして、詩織莉さんの話題を出したことを後悔しているような感じで無理にはしゃいだ感じも受けた。 「ユキはあの店で働いていない感じだが……?」  普通のゲイバーの場合は酔って騒ぐ客をメインにしていることが多い。それにああいうショーはモロに反社会勢力が人目の付かないところでこっそりと行うのがこの街の常識だった。 「あそこに連れて行かれたのは今日が初めてだよ。ただ、顔見知りとか少し言葉を交わす人は意外にたくさん居て驚いた」  まあ、店のオーナーの経営戦略も多岐に亘るそうだから一概には言えないが、あのお金の動きといい、ユキが今ダボッとした感じで着ているワイシャツとスラックスそして歩き辛そうな靴を手渡したチンピラと思しき893は猫と思しき刺青を入れていたし。  顔見知りとか言葉を交わす……ということは、ユキもそういう世界の住人だったということか……と落胆してしまっていた。  そういう世界とは無縁の存在のような感じだったし、その上ユキの頭と身体の聡明さに惹かれているオレだったので。 「あの猫の刺青は受け狙いとも思えないが、どうせ入れるならもっと威圧感を与えるモノにすべきだと思っていたんだが……」  オレは身体に当然入れてはいないが刺青の入れ方くらいは知っている。人間の皮膚に墨を浸した針を刺して行くという、ある意味人工的な怪我のようなもので、当然身体に負担がかかる。 「ああ、あれは虎を彫る積もりだったんだって……。ただ、実際に通ってみると物凄く痛くて我慢が出来なくなって……、彫り師の人に泣きついて簡素化して貰った結果ネコに見える虎になったらしい。本人は虎だって言い張っているよ」  ユキは凛とした感じも受ける細い眉を微かに寄せている。  その表情から彼のある意味行き当たりばったりの行動そのものが嫌なのか、それとも「そういう」社会を嫌っているのかは分からないが、ユキがそういう裏話的なことを知っているということは「その筋に知り合いが多い」からなのだろう。  ただ、詩織莉さんもあの場では異質な存在だったが、ユキも同じように感じた。その直感を信じたいと思ってしまう。 「服はどれが良いかな?」  複雑に入り組んだ感情を持て余していると、若者に人気の――ちなみにリョウがそんな服を着て人前に出たらイメージダウン間違いなしだ――量販店が有った。  不夜城を誇るこの街らしく、この時間でも開いているのが凄いと思う。  オレなんかは服を買いに行くのは出勤のかなり前にマンションを出なくてはならない。 「ショー用なのだろう?だったら、効果的に千切れ飛ぶボタンが有った方が良いし、ユキの白くて肌理の細かい綺麗な肌が引き立つように紺とか黒系統の――そうだなデニム地とかが良いんじゃないか?  スラックスはコットンの方が脱がしやすいし、肌も傷付けない。ジーンズだと最悪の場合何か刃物のような物で切らなければならなくなるので」  こういう量販店は人件費を浮かすためだろうが、客に店員が付かないようになっているらしい。  それにこの時間に服を買いに来る人間はかなり珍しいようで、店内は閑散としている。  まあ、呑みに行くのが普通の時間だろうが。  だから人の耳を気にせずに話すことが出来るのは有り難かったが。 「そうだね。ポロシャツとかTシャツだったら、最終的に脱がされるだけになってしまうし……」  ユキが優雅な感じで首を傾げている。この仕草は既視感があった。詩織莉さんが時々こういう白鳥のような感じで首を動かしていた。  オレが他のお客さんと話している時にヘルプに付いたキャストの質問をはぐらかしている時とかに。  ただユキが見ているのは値札だった。 「リョウ、値札が付いているのをどうやって着るの?」  内心怪訝に思った。ユキは真顔だったし、純粋に疑問に思っているのは分かる。ただ、値札が付いている服を購入してそれを切ったり千切ったり――オレは切るタイプだが。  ライターの火で燃やすとかハサミなどを探すのが面倒だとかいう理由でそんなことをしている同僚が居ることは知っていた。ただ値札が付いていることは常識ではないのかと思ってしまう。 「――今までどうやって着ていたんだ?」  オレもこの世界に飛び込んでしばらくは当然ながら売り上げがなかったので店の「寮」という名前の単身者用の1DKに二段ベッドを二個置いた部屋に住んでいたことは有る。  その時はママチャリで通勤したし、スーツは店からの貸し出しだった。その頃から考えるとゼロの数が3つくらい違う服を着るようになったが、それでも値札はずっと付いている。 「え?タンスの中に服が入っていて、それを適当に着るだけだったよ。  それに季節に応じてタンスの中身は替わったし、古くなったのは自然にどこかに行ってしまっていた……」  ――ユキはどういう生活をしていたのかサッパリ分からない。  異国に居たとか言われても軽く信じてしまいそうだが、言葉も仕草もそして和風な感じに整っているどこか可憐な容姿とはいえ日本人そのものといった感じだ。  しかも、あんな本番ショーにあられもない恰好で出ているのだから、大金持ちの御曹司というわけではないだろうし。  ただ、893のことは良く知っていそうなのでそっち関係の有名な人間の息子とか。  いや、そうであれば尚更あんなショーに出ないだろう。 「このカゴの中に買いたいものを入れて、あのスペースに持って行くんだ。お会計が済んだら、店を出て、値札とか余計な物は取って捨てる」  何だか「初めてのお買い物」に付き合わされた感じがする。ユキは感心したような感じで頷いていた。  紺のデニムのシャツと薄い茶色のスラックス、そして何故かTシャツとジーンズ、そして下着も三枚もカゴに入れていく。 「こういうふうにして服って手に入れるんだね……」

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