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第30話
「あのメス逝きしている顔も物凄く綺麗だった。普段はそんな『いかがわしいコトなんて全然考えていません』的な優等生というか……凛とした顔なのに、あんなに融けそうな砂糖菓子のような顔すら絶品なのに、その上あの小さな口から出した時の表情を見ましたか……」
「そうそう……。いかにも色好みといった子が乱れるのも興が有りますが、やはり聡明そうでお堅い感じの綺麗な顔がああいうふうになって……、しかもそれでいて胡蝶蘭のような気高さは失わないとか……。いやぁ、今夜は特別に良いものを見させて貰ったよ」
胡蝶蘭の床に力尽きたように横たわっているユキの黒い髪の毛を梳きながら唇を重ねたり、首筋や耳の付け根、そして薄紅色に染まってツンと立っている乳首を優しく吸ったりしていた。
「気持ち良い……。さっきみたいなのも良いけれど、リョウにこうされているのも僕は大好きだよ……。
でも、もう大丈夫だから」
ひとしきり感想を述べ合った列席者達はタブレットを操作している。
「初めてなのに、物凄く無理をさせてしまった……もう少し、休む時間は有りそうだ」
司会者が机に置いたタブレットに目を丸くして見守っているのが特に印象的だった。
「無理って……。だってショーなんだから、お客様を満足させるのが仕事でしょ。仕事はキツいものだって聞いているし、この程度は大丈夫だよ」
健気な言葉だったが、先程まで喘ぎ続けていたせいか、舌が回ってないのが幼い子のような印象を与えて思わず微笑んだ。
「レディ、いやクイーンアンドジェントルメン、お待たせ致しました!!
何と!!当店始まって以来の快挙となる数字が出ました!!
ユキさん、そしてリョウ様おめでとう御座いますっ!!
さて気になる合計金額は――!!シオリ様からユキさんにお知らせするということで。宜しいですか?シオリ様」
詩織莉さんは嫣然たる笑みを浮かべて長く細い首を優雅に縦に振った。
その様子を見ていて、あの首もユキと似ているような気がした。以前にも思ってはいたものの、ユキと詩織莉さんは何となく似ている点が多い。
「その前に二点お願いが御座います。お願いを聞いて頂けないと困ったことにもなりかねません。しかし、一方的なお願いというのも心苦しいですので、ユキさんには初めて使った場所をリョウ様に開いて貰って目の保養をして頂きたく思いますが如何でしょう?今宵の席に相応しい『風流』なお開きということで」
「いいぞっ!」とか「あの桃のような尻の中が真っ赤に熟している上に、白い蜜まで垂らしているのをもう一度見られるのかっ!?」というような声が拍手喝采の中聞こえた。
どうやらオレやユキには拒否る権利はなさそうだ。
「いいよ、それくらい……。だって――」
ユキの顔が唇と同じ色に染まっている。
「もっと恥ずかしいことを散々見せて来たんだから」
カラリとした感じで言ってはいるし、ユキの言う通りなのだが。
「こうすれば良いのですか?」
色香と雫しか纏っていないユキが胡蝶蘭を背景にして立ち上がった。
胡蝶蘭よりも艶やかで、そして瑞々しい身体がオレの方を向いて手を差し伸べてくれた。
ユキの華奢な指を恭しく――店では習慣的に常連の女性にはそうしていたが、それよりも更に気持ちが入っている――口付けた後に、立ち上がった。そしてユキの華奢な身体を抱き締めた。ぴったりと汗に濡れた身体を密着させると、ユキもオレの背中を強く抱き締め返してくれる。
ユキの唇が物言いたげにオレの方を向いたので、甘く溶けるようなキスを交わした。
白い胡蝶蘭のため息のような接吻だった。
ユキの身体を社交ダンスのリードのような感じで優雅に回転させて、客席の方へとユキの背中から足のラインを晒した。
桃のようなお尻を指で開くと「ああっ」というユキの甘い声が上がった。細い眉が寄っているのは、穴から零れた白いエキスが太ももの内側を滴っているのだろうか?
「ほう。咲き初めた赤い薔薇に白い露が宿っているようで……。素晴らしいっ……」
葉巻を吸い続けてきた男性が煙と共に満足げな声を上げた瞬間、割れんばかりの拍手が起こった。
「ではフィナーレを飾らせて頂きます。
お約束の一点目は、今夜のことは絶対に広言無用ということで御座います。世の中には無粋な人間が多いですので、念のためです。
そして、二点目、ユキさんやリョウ様のことをどこかで見掛けられたとしても、完全無視でお願い致します。どうか、その二点だけは厳守して頂ければと願います」
オレやユキにとっては良い条件だった。そしてこの店の存続も――実際問題としてこのような本番ショーは違法なので警察に見つかったら厄介なことになる――掛かっているからか、先程とは異なるスタッフは白いワイシャツを脱いで、背中の見事な彫り物を見せている。
脅しというか示威なのだろうが、この店が893関連だということを暗に述べているようだった。
「では、シオリ女王様より、賞金の贈呈をお願い致します」
詩織莉さんはかなり高いピンヒールを酔いの気配も見せずに優雅に捌いて、天井から見えない糸で吊られているような動きで歩み寄ってきた。
「二人ともおめでとう。美しい人達が愛し合うのを見るのはとても楽しいもの……。良いものを見せて貰ったわ。
これが細やかな感謝の気持ち、よ」
皮製の書類ホルダーに小切手らしい物が挟んである。それを見たユキが無邪気な感じで目を見開いた。
何時も理知的な判断を下すユキにしては珍しいなと思いつつ、ユキが凝視している小切手に視線を流して――絶句した。
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