48 / 121

第48話

 お客さんからの聞きかじりだが、男の場合とは異なって女性の方が陰湿な仕返しをすることが多いとか恨みは何年経っても忘れないとか。  ユキは、確かに身体的には「オンナ」としての資質を持ち合わせていると思う。  そうでなければ衆人環視の中で「中逝き」なんてしようとしても出来ない。ああいう逝き方は、お互いの身体と精神が最高に高まっていて、しかも二人きりの時とかのリラックスした場合にしか無理だと聞いたことがある。  ユキの場合、オレとの身体の相性がよほど良かった――その後の愛の営みでもそのことはシミジミと実感したし、オレの身体が回復したら、もう一戦交える積もりで居る。ただ色々やんちゃが出来た「したい盛り」の高校生の時と違って休憩を挟まないといけないところが我ながら情けないし「オレも年だな」と思ってしまう――のは確実だし、ユキもオレが相手だとリラックスは出来る感じだったが、冷静にショーの出来映えを考えている時と、その後のある意味「良い方向での計算外れ」の本能の暴走という面が有ったに違いない。  そうでなければ女性の「極め方」が出来るとは思えないので。 「うーん……。ユリさんはね、確かにあの店のナンバー1だし、店の幹部も一目置いている稼ぎ頭なのは確かなんだけど、僕がお父様と別れてスタッフ用の控室に入って行った時は何だか遠巻きにされているみたいな感じだった。  ナンバー1ってそういうモノなのかもだけど……?」  本番有りのゲイバーとウチのような店では違うのかもしれないが、オレだって一応ナンバー1の座をキープし続けている。そして、エルメスのバーキンの中に札束をごっそりと入れてご来店の伝説のキャバ嬢と呼ばれているお客さんも居るが、彼女だって後輩と―-と言っても取り巻きだろうが――来た時には全員のお会計は支払ってくれている。  しかも368万何千円というお会計に4束を無造作に出して「お釣りは要らないわ」と事もなげに言って、若手のキャバ嬢は尊敬と憧憬めいた眼差しを彼女に投げかけている。  オレだって後輩と焼肉などに行く時には全部支払うのが当たり前で、そうやって派閥を作って維持しなくては店も回らないような気がする。  まあ、本番有りのあの店では、会話ではなくて身体でお客さんを掴んでいる側面は有るだろうが。 「いや、基本はトークでお客さんを楽しませてストレスを発散させるのが――あの店では身体なのかもしれない――オレ達の仕事で、ただ、お客さんが立て込むと絶対にヘルプは必要となって来る。  身体でもトークでもそうだが、一人だけでは出来ることは限られて来るので、オレ目当てのお客さんが複数人居れば、後輩に会話の繋ぎとして入って貰うことも良くある。  そういう点では一緒だろう?」  当然ながら、オレは一人しか居ないし、分身の術も使えない。  だからそういう時にオレを慕って来る本指名を中々取れないホストに代打を頼むことなど日常茶飯事だ。  オレはトーク力とそして、この――自分で言うのも何だが――整った外見とか低いが良く通る声で勝負している。  ユリの場合は身体なのかも知れないし、複数人OKという「特殊」な技能を持ち合せているようだったが、まさか何十人も相手をするわけにはいかないので、ヘルプは必要だろう。  それに代打的なヘルプとオレの「格の違い」みたいなモノをアピールすることによって稀少価値も高まるという打算も有る。これはオレが考えたことではなくて、代々のナンバー1が踏襲して来たやり方だ。だからそれが正攻法なのだと考えている。 「そうだね。シンの言う通りなんだけれど、ユリさんの場合は控室でも女王様って感じだったよ。  僕もさ、お父様が『大人の話』というか店長さんと別室で真剣な話しをしている時ってさ、僕も控室で遠巻きにされていて、それで話しかけて来てくれたっていうのは有るけどね……」  ユキの場合はお父さんが組長なので遠巻きにされるのは良く分かる。ただ、ユリが女王様扱いを受けているのは明らかに本人の普段の言動とか性格だろう。 「ユキの場合は、父さんのせいで仕方ないさ。それに、大学に行けば普通の友達が出来ると思う。  ユリ……さんは、ユキや詩織莉さんみたいにさ、組長と近いから自然にそうなるのは分かるが、何だか違和感を覚えてしまうんだが?」  ユキの甘く薫る身体のあちこちソフトな感じで触れながらなるべくさり気ない感じで切り出した。  ユキはほの紅い素肌をより紅くさせて、そして飼い主にノドの下を撫でられた血統書付きの猫のような雰囲気を漂わせていた。  その満足げな、そして気怠さも配合させたユキの表情が、理知的な感じに引き締まって行くのも何だか蝶の羽化を見るような気がした。  こういうユキの切り替えの速さとか賢さが最高に好きだ。 「ユキのそういう表情も大好きだ」  ユキの紅色の笑みが綺麗で瑞々しい花のように咲いていた。 「有難う。これからもシンがそう言ってくれたら嬉しいな。  僕もシンのこと大好きだよ!!  それはそうと……。うーん、ユリさんの態度がナンバー1だからかって思ってたんだけど……。シンがそう言うなら違うんだろうね。  どうなんだろう?  ただ、誰とも対等に口をきいたトコ見たことないな。  栞お姉様と――お店では会ったコトないけど――同じような扱いみたいだとか、誰かがポソッと言っていたような気がする」  ユキの言葉でますます謎が深まって行く。

ともだちにシェアしよう!