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第62話

「何かさ、シンの名前の口座に僕のお金が?うーん、ちょっと違うな……。あのショーで二億のお金を貰えたのも『リョウ』さんが相手だったからで、他の人だったらあんなにお客さんに喜んで貰えなかったと思う。  ああいうショーってさ、ここだけの話しこっそりと色んなトコで開催されてるし、あの料亭を改造したゲイバーでもユリさんとか熟練した人がしているんだけど、そのシノギじゃなくって『売上金』の帳簿は見たこと有るんだけど、あんなに高額なギャラは貰えてないし『売上金』自体が頭打ちだってことも知ってる」  ユキの実家は裏の世界に少しでも関わりがある人は知らない人が居ないほどの大きな組だし、オレのような部外者でもチラホラとウワサで聞く。  そして、社会全体が「そういう世界」を排除しようという流れになっているので昔ながらの用語ではなくて一般社会の――それこそ今向かっている恭子さんの銀行とか――言葉に改めるようになってきていることは知っていた。 「そうなのか?それは知らなかった」  オレの愛車の助手席に座ったユキは楽しそうにオレの顔を見詰めながら話してくれているのも何だか嬉しい。  恋人兼保護者になった気分だった。 「うん、そうだよ。覚せい剤とかそういうのを売るのが難しくなっているからね……。だから過激なショーで何とか売り上げをと目論んでいたみたいだけど、やっぱりさ一回過激なコトをしたら次からはもっと凄いのをしなきゃお客さんが飽きるから、色々と趣向を凝らしたりするみたいなんだけどさ、そういうのもやっぱり限界があるワケ。  でも昨夜の場合は、僕は初めて出たんだけど、その新鮮さと『リョウ』さんとの絡みで物凄く感じちゃったでしょ?  ああいうギャップが良かったみたいで、二億円も貰えちゃったっていう話。  だから僕一人が無理やり――そのう……嫌々されちゃって……という企画だったら他にもそういうのも有るみたいだからあんなにお客さんがお金を投げないって思う。  淡々と語るユキは昨夜のこともそうダメージになっていないのだなと思うとちょっと嬉しい。  確かに詩織莉さんと店外デートで行った「そういう」ショーは無理やり系が多かった。  だからそういうのが好きな人間も――詩織莉さんは「好き」というよりも彼女の心の傷を何とか癒そうとしていて、そのせいでそっち系のショーにオレを誘ったというのは昨夜聞いた――目が肥えて来ているのだろうな……とは思う。  ウチの店だって色々な企画とかを考えて女性客を逃さないような新鮮味を常に出している。 「ああ、ココが恭子さんのお勤め先だ。着いたことを知らせるからちょっと待っていて欲しい」  恭子さんは「体育会系」と噂に高い銀行の課長職らしいので窓口には居ない。 「僕のことを気に入ってくれるといいな……。何か『リョウさんに相応しくない』とか言われたり思われたりするの、やっぱり嫌だもん……」  ユキが心配そうな表情を浮かべて唇を引っ張っている。  昨夜は気付かなかったがユキの癖らしいが、そういう仕草もとても可愛い。 「大丈夫だろう。ユキはガチで可愛いし、恭子さんも好感を持ってくれると思う。  これが、ユリ……さんのような『いかにも』っていう人だと厳しいかも知れないが。  普通の大学生っぽい点は明らかにプラスポイントだろう。  オレがゲイのクセにナンバー1を張れるのも毒舌オネエキャラとかじゃなくて『普通の男性』っぽさのせいだし」  ユキは安心したように笑みを浮かべている。ちなみにオレは二億円のお金を『オレの口座』に入れるために来たというふうにしたいので、ホストの制服みたいになっているアルマー○のスーツだったが、ユキは昨日買ったGユーの服だった。  ユキの後継ぎ候補としての勉強にお父さんに連れられて出向く時にはどんな服装だったか聞いていないが、見栄と派手さが美徳とされる世界なだけにアルマ○ニかどうかは分からないが、それなりのブランドのスーツとか、若しくはブランドのロゴがこれ見よがしに描かれたTシャツとかそういうモノだったのかな?と思う。  ただ、ユキのそれなりに整った、そして清潔感とか聡明さが漂っている雰囲気だと今時の大学生とかの若者が着ている服の方が好感度も高いような気がする。  あまりキンキラキンの服装では、ホストクラブにプライベートで遊びに来ている恭子さんだが職場ではお堅い銀行員なので。 「さ、じゃあ、凍結されてないことを祈りながら行くぞ?」  ユキを促すと少し緊張した雰囲気で――何だか録画したドラマで観た恋人の家に改めて挨拶に行くお嬢さんのようだった――コクンと頷いている。 「あら、良く来てくれたわね。うん、お似合いのカップルでお姉さんは安心した……」  連絡を入れていたせいと、多分重要なアポが入っていなかったのだろう、恭子さんは店舗の入り口で待っていてくれた。  そしてユキのことを心の底から気に入った感じの微笑を浮かべて見ている。 「初めまして。お目に掛かれて光栄です。  今日は宜しくお願いします」  ユキがオレに対して話すよりも幾分落ち着いた口調で話している。  やっぱりユキは――内心では緊張しているのだろうが――腹が据わっているというか、大人の世界に――と言っても特殊なモノだが――慣れている感じで挨拶しているのも大変好ましい。

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