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第63話
まあ、オレの店に「みかじめ料」の代わりになるような見る人が見ればピンと来る絵画とか花などを押し付けに来るのは下っ端と決まっている。
最初はもろに893風と言うか半グレといった連中だが断っているうちに堅気のスーツめいた――何故かアルマー○が多い――着たそれなりの役職の人間が来るのは経験上知っている。そういう人は目つきとか雰囲気でヤバイ奴だと分かるが、ウチのオーナーも腹が据わっているので相手にしない。そういう人は言葉遣いも――多少は間違っているが、特に敬語――ある程度は「普通の」言葉だし、無駄にすごんだりはしない。オレも近いうちの役職に上がるので
何しろ「そういう組織」と繋がりが有ると――絵画や花も見る人が見れば直ぐに分かってしまう。オレを指名するお客様には居ないが、キャバ嬢とか泡姫を抱え込んでいる同僚も居るのでその女性客は絶対にピンと来るので――クリーンさがウリのウチの店には合わない。
反社と繋がりが有るというだけで客足は思いっきり鈍ってしまうので。
それにオレが役職に上がると決まった時には、そういう「みかじめ料」を強要したら即警察に通報したら善処してくれるとも聞いていた。
だから、昨夜のショーのように完全密室でするか、それともユキのお父さんがしていたように代表取締役には戸籍を持っているホームレスなどの「綺麗な」経歴を持っている人を選ぶ傾向にあるということも知っていた。
「改めまして。私はこういう者です」
恭子さんが慣れた仕草で名刺を渡している。多分他の行員の目が有るからだろう。
「ご丁寧に有難うございます。あいにく名刺は持っていないので失礼します」
ユキは両手で丁寧名刺を受取っていた。屋敷の奥深くの住んでいてもお父さんの仕事のいわば社会見学と言うか、次の組長教育をされているようなので、社会人のビジネスマナーも心得ているのだろう。
「良い子ね。リョウもさ、こういう子と付き合えてますます落ち着くんじゃない?
それに、オフの日にはGユーの服を着て一緒に歩けばお似合いのカップルだし、リョウだと気付く人間も居ないと思うわ。
あ!フェラーリじゃなくて電車を使えばもっと良いかも。
確かにア○マーニの新作のスーツをピシリと着こなしていたらたまたま出会ったお客さんは分かると思うんけれど、そういうカジュアルな服装だと誰も気付かないかと」
恭子さんは心底可笑しそうな表情だったが他の行員とかお客さんに聞こえないような小声で話してくれている。
まあ、異性愛者が圧倒的に多いので――同性のカップルも認められる世の中になったとはいえ、まだまだ理解をしてくれるのが少数派なのは知っている――当然というか守秘義務もたくさん有りそうな銀行内では正しい対処の仕方だろう。
「え?リョウさんがGユーですか……。個人的には嬉しいですけど……。
手を繋いで公園とか散歩したいな……」
そんなことを話していると支店長か副支店長と思しき人が小走りに近付いてきた。メガバンクでは体育会系と有名な銀行なので何だか、もろ地味なスーツ姿でも足の運びとか手の動きが体育会系のクラブに所属していた感じだった。なかなかスーツ姿でこういうふうに格好よく走るのは難しい。
恭子さんが二億円預入れの顧客が来ることを報告していたに違いない。
「これはこれは……。当行を選んで頂きまして誠に有難うございます。
私はこういう者です」
オレに名刺を渡してくれる。色々な肩書が書いてあったが支店長らしい。
ちなみに小切手の裏書きの件を恭子さんに教えて貰っていたので、オレの名前を裏に書いて来た。
だからこの小切手の払い手であるあの店の口座が凍結されていない限りはオレ名義の口座にすんなり入るハズだ。
「ささ、どうぞ。こちらのブースにお入りください」
ユキはどうやら恭子さんを気に入ったようで、支店長が「君はもう良いよ」といった感じの目配せを敢えて無視した感じで「山岡課長にも同席して貰いたいのですが。あくまでも宜しければ……なのですが」
断固とした口調で言っている。
恭子さんの名刺には確かに山岡という名字が書いてあったのを今更ながら思い出した。
「承りました。では山岡も同席させて頂いて宜しいでしょうか?」
支店長は、オレ名義の口座に二億円が入るのでオレに聞いて来た。そのお金を自由に使うのはユキだが、そんなヤバいことまで恭子さんが上に報告はしないだろうから。
「山岡さんには常々お世話になっているので是非お願いします」
詩織莉さんとかそういう太客ではないものの、ボーナスの時とかには割とお金を落としてくれているし、時々フラっと来てくれてそれなりのお金を使ってくれている。
だから支店長の平塚という人が手続きをすれば恭子さんの直接の手柄にならないかもしれないな……と了承した。
そこで気付いたのだが、ユキはそこまで読んでいたのかも知れない。
恭子さんもユキに感謝の眼差しみたいな感じで見ているのでビンゴのような気がする。
そういう賢さとか臨機応変さもオレがユキを大変好ましく、愛おしく思う要因の一つだった。
四人でブースに入ると、制服を着た女性がすかさずお茶とお菓子を持って入ってきた。
オレだって、銀行口座にそれなりのお金は入れてはいる。しかし、一回で2億円などは無理なので、小さな会議室のようなブースではなくて、定期預金用の窓口だった。
しかもお茶もお菓子も出ないのが当たり前だったので、銀行サマもオレ達の業界と同じく落としてくれるお金によって扱いが変わるのだな……と思ってしまう。
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