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第69話

「ああいう人って?オレの恋人にどういう感想を持ったが教えて欲しいな」  アキラと共にスタッフルームに向かいながら聞いてみた。  ユキに対して良い印象を持っていることはアキラの表情からも分かったので。  まあ、普通というか一般のホストは当然異性愛者だからユキに「そういう」感情は抱いていないと思う。 「いやあ、ほら、ホストって基本トーク力っすよね。 オレは会ったこともない人ですけどぉ、ジャニー〇で割と良い線まで行ったものの、辞めてウチの店に来たっていう『大型新人』って言うんすかぁ?売れるの間違いないとか言われていた人がいたんでしたっけ?  でも、最初のうちはコアなファンというかジャニー〇時代からの追っかけとかが来店してくれたって話ですけどぉ、トークが出来ない上に『お前らとは違う選ばれた人間なんだ』的なオーラがすごくて……ヘルプに付くのも断固として拒否ってたとか。  で、結局店に馴染めなくて辞めたって話あったんでしょ?  いくら顔が整っていてもトーク力がないとか酔ってもはっちゃけられない人ってダメじゃないっすか?  ま、リョウさんは酔っていなくてもお客さんの前では割とハイテンションだし、お客さんの酔い具合によって普通の話のスピードとか早口とかそういうのキチンと計算してるっていうかぁ。  そういうのキチンと計算してるんだなぁ、すごいなあってソンケーしてますけど」  アキラは水商売の女性――22歳のキャバ嬢が一番の太い客だ。ちなみに彼女の最も多い売り上げは一晩で1億4千万円というウワサだ。  そういう女性には――銀座のクラブのママとかだったらもっとしっとりとした話し方が求められるが――アキラの場合はこういうキャラで通っている。  高校を卒業だか中退だかは知らないが、伝説のキャバ嬢もこういう話し方なのでそれに合わせているのかも知れない。 「そんなに褒めても当分は焼肉とか奢れないし、ウチに来るのもナシだ。何しろ恋人がいるから。  それにそんなに社交的なタイプでもない」  アキラは人懐っこい性格だし、派閥関係なしに誰彼となく話すのは知っていた。  だからオレの口から「恋人が出来た」と吹聴するよりもアキラから広めて貰う方が効果的だという打算は有った。  そして、親睦のための焼肉とかウチの家での二次会(?)も当分はナシということも。 「いやぁ、ああいうタイプって確かにトーク力はないっぽいですけど、お客さんの愚痴を延々聞いて、適度に相槌を打ちながら要所要所で的確な言葉を挟めるタイプって感じっす。  俺が俺がと、自分の話をしていたってウワサのジャニー〇系ホストとかと違って、お客さんがほっこりと癒されるタイプって感じで。  ああいうホストばっかりだと、シャンパンタワーのどんちゃん騒ぎとか出来なくなるしぃ、そういう活気を求めているお客さんにはウケないかもっすが、仕事とかでストレス溜まりっぱなお客さんで、騒ぎも違くね?っていう『お悩み相談』というか愚痴を言いたくて来店するお客さんには良いかなって……」  流石はナンバー4だけあって人間をよく見ているなと感心してしまう。  確かに乱痴気騒ぎには向いていないが、ユキに「癒し系」だろう。それに「この子を助けてやりたい」と思わせる何かを持っている。  オレもそう思ったが、それは「保護者」兼「恋人」としてだけで充分だ。 「リョウさんって、お客さんを見る目もパないと思ってましたケド、恋人選びはガチで凄いっす。  焼肉とかあの豪華マンションでの飲み会とかがなくなるのは正直残念すが、あれだけ凄い恋人とアチュラチュなら仕方ないってゆーか……。  そのうち、皆の飲み会に連れて来て下さいってゆうのはワガママっすか?」  同僚を自宅に呼ぶと、ユキは料理とかお酒の心配とかをしそうだ。  ケータリングサービスを頼むにしても料理がなくなったとか、日本酒を呑んでいる人間には気の利いた和食を作りかねない。「分葱(わけぎ)のヌタ」とかそういうのを。  そしてそんなことを続けているとイカの塩辛とかも自分で作ってしまいそうな性格なので、同僚は呼びたくない。  オレ一人のために作ってくれるのは大歓迎だが、決して口には出さないようにしようと思った。  居候の――といってもユキが思っているだけでオレ的には「同棲」だが――身の上を恥じているような感じも受けたので、オレがお客さんを連れてきたら精一杯もてなして、ユキの本分である学業に身が入らなくなってしまっては本末転倒だし。 「ドラレーヌにいらっしゃいませっ!!女王様」  開店時間になって正面の扉が開くと待ちかねたようにお客様が入ってくる。  ウチの店の名前は「レーヌ」で、フランス語では王妃とかいう意味らしい。ただ、年配のご婦人には「女王様」20代のお客様には「王女様」と呼びかけるのが習慣になっている。  オレはこの開店時間が何よりも好きだし、身の引き締まる思いがする。 「リョウ、来たわよ。ああ、恭子さんも残業が終わったら行くってラインが来たわ」  詩織莉さんが優雅な笑みを零して歩み寄ってきた。もちろんヘルプに付くホストを下僕のように従えて。 「シャンプー替えましたか?いつもよりもいい香りですね」  そう挨拶すると詩織莉さんは赤いルージュを綺麗に塗った唇にエレガントな笑みを浮かべた。  ウチに遊びに来たというのも確かだろうが、ユキのことも気になっているのだろう。  ちなみに恭子さんもオレ推しなので、他の客の席に居なければならない時に一緒に呑んで待っている関係上、二人は知り合いというか友人になっている。  恭子さんのノルマがいくらなのかは知らないが、二億円は多大な貢献をしたに違いない。だから、今日もご来店してくださるのだろう。  アキラもユキに対して好印象を抱いたらしいので、そういうことも詩織莉さんに伝えなければなと思った。  アキラは別に詩織莉さんとそう絡みはないが、ユキを可愛がっている詩織莉さんは喜ぶに違いない。

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