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第74話

「あ!弟さんですか。何だか雰囲気が似ているなとは思っていたんですけど、納得です。 クラシカルというか、古式ゆかしい日本人って感じが共通していますね。詩織莉さんと」そういえば詩織莉さんはハリウッドの「武士道」という映画にもヒロイン役で出ていた。主人公から絶大な憧れというか崇拝を受ける大名の正室(?)役で。 「ああ『武士道』でも凛として美しい大名の妻役で出演されてましたよね。ああいう大和撫子そのものといった感じの役はハマり役だったと思います」  恭子さんは大きく頷いていた。 「時代劇はね、所作が大変なの。着物をきちんと着こなすのは、割と慣れているから大丈夫だと思っていたのだけれども、大名の奥方の着物はまた別格に裾裁きに優雅さを求められたり、ね。  それはそうと、土地が有れば銀行はお金を貸してくれるものなの?抵当権とか分からないけれど、新しく買えばそんな余計なモノは付いていないんでしょう?」  詩織莉さんがコトもなげに赤い唇を開いている。 「それはそうですけど……。  ああ、あと分譲マンションの購入資金にお金を借りてくださる方もいらっしゃいます。  ほら、家とか土地は管理が面倒なので、都心の一等地にタワーマンションがたくさん建っていますよね。その最上階を――といっても、その土地の単価が高い物件に限られますけれど――買うお金とかを借りに来られるお客様が増えています。  最近、そういうタワーマンションを買った上で自分好みのペントハウスに仕立てるための内装工事費用まで込みの値段を貸して欲しいというお客様がいらっしゃいました。誰とは言えませんが、多分ご存じの方だと思います」  詩織莉さんが何故そんな質問をするのか分からないという雰囲気を微かに漂わせながらも恭子さんは最近のトレンドについて語っている。  多分だが、ユキのことを気に入ったっぽい恭子さんを味方につけるための布石なのかもしれない。  詩織莉さんは「武士道」がアメリカでも大ヒットしたので、アメリカからのオファーがかなり来ていると週刊誌に載っていた。なんでも有力視されているのは「花魁~おいらん~」という吉原かどこかの遊郭で苦労しながらもトップの遊女にのし上がる女性のサクセスストーリーらしい。まあ、「ゲイシャ・フジヤマ・ニンジャ」の国として認識されている日本の芸者さんよりも豪華な和服を着て派手な髪形の花魁というだけでウケるような気もする。  詩織莉さんも日本で活躍するよりも――何しろ縁を切ったとはいえ実家がキナ臭いことには変わりがない――そんな生まれがどうこうと言わないアメリカの方が向いているのかもしれない。 「タワーマンション……ね。  そういえば最近素敵なお部屋にお呼ばれしてね、床が真っ白な大理石なのに暖かいの。靴を脱いで良いのかどうか戸惑ったのだけれど、それはもう夜景も素晴らしいし、セキュリティも完璧みたいだったわ。  私も一応は人気商売だし、こういうところに住むのも良いかもなってちょうど思っていたところなの」  詩織莉さんが意味ありげにウインクしてきた、恭子さんには気づかれないようにと。  ウインクがなくても、オレの家のことを言っているのだなということくらいは分かったが。  セキュリティという言葉を聞いて、ユキはキチンと鍵をかけただろうな……と心配になった。  まあ、住人以外の人間はそもそも共用ラウンジまでで、住居者専用のエントランスに入れないから大丈夫だろうが。  そして、今頃ユキは何をしているのだろうな?と思いを馳せてしまう。スマホを買ったのでその使い方を覚えようとしているのかもしれないし、詩織莉さん曰く「素晴らしい夜景」――ユキはお屋敷で生まれ育ったらしいので、そもそもそんな高いところに住んだことはないだろうから――をぼうっと見ているのかもしれない。  どちらのユキも魅惑的で、とてもチャーミングだ。 どちらかというと前者のような気がした。あ、それとも雑炊かお茶漬けを作っているのかもしれない。 「リョウ、鼻の下伸びているわよ?」  詩織莉さんが悪戯っぽく笑っていた。 「え?そうですか?イケメンで売っているのに、ヤバいですね。少し酔ったのかもしれません。ホストが酒に呑まれたらダメですね……。少し失礼してお手洗いに行ってきます」  そう言うと、詩織莉さんは花が咲いたような笑みを浮かべながら「私もお化粧を直しに行くわ。恭子さんは好きに飲んでね」  何か恭子さんに聞かせたくない話があるらしい。  それが妙に気になった。

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