80 / 121

第81話

「あ!そうだ!ほら例のショーの隣の席に座っていた美容整形外科の院長とジャニーズ系の青年もユリと意気投合していましたよね。  あの院長って妻帯者でしたよね、確か」  恭子さんが眉間にシワを寄せながら物凄い勢いでキーボードを叩いている。  その助けにならないかと必死に頭を働かせていた、オレが出来ることは何かと。 「そうね。やっぱり妻子が居て当たり前の世界だもの。世間体を気にする人なら結婚はするわよ。  奥さんと愛人を両方愛している人も居れば、正式なパーティには別居している正妻を隣に立たせて、プライベートなパーティには同棲している愛人が仕切ることも多いようだわね。  あの院長はリョウも知っている通りマスコミにも出たがりだし『あんな』場所に『恋人』同伴で参加したのがバレたら大変なスキャンダルになるわね」  詩織莉さんもオレの考えを読んだ感じで細い首を優雅に動かしている。その首筋のラインがユキとそっくりで、今頃ユキが酷い目に遭わされていないことを強く願ってしまう。  オレも二丁目とかで働いている「そっち」の人間に知り合いは割と居るが、物凄くサッパリとしている人間と本物の女性よりも更に陰湿なヤツに二極分化している印象を受けていた。そしてユリは間違いなく後者だった。 「あのう、オレのスマホはもう使って構わないですか?」  恭子さんはアイパッドとPCを交互に操作している。多分、オレのスマホのGPS機能の情報をアイパッドにコピーだか共有だかをしたに違いない。オレのスマホはマホガニー製のテーブルの上に置いてあった。  確か、院長はユリともお楽しみだった記憶が有るし、ジャニーズ系の恋人だか愛人が居ることを世間にバラすと脅せば簡単にいうコトを聞くだろう。  マスコミにも知り合いというかお客さんは居る。今夜は来ていないっぽいが、その女性記者にタレ込めば離婚沙汰になってもおかしくないネタだった。 「ええ、有難う。情報は全てこっちで分かるようにしてあるので大丈夫。  赤が5つも有るのよね……。そのどれかだとは思うのだけれど……。絞りきれないのよ」  恭子さんは苛々とした感じでタバコを吸ってからPCの操作を続けている。  オレはスマホを取ってからネットに繋いで、あの医師が経営する美容外科のサイトをチェックした。  営業しているかどうかは非情に怪しい時間帯だったが。 「リョウ、もしかしてあの美容外科医に電話する積もりなの?」  詩織莉さんがオレのスマホをチラリと見ている。 「そうです。昨夜のことをマスコミにバラすと脅したら何らかの情報が掴めるかも知れないので。  ほら、昨夜はユリや『恋人』と三人でプレイしていましたよね?  それにジャニーズ系の『恋人』とユリは意気投合したっぽかったですし、もしかしたら一緒に居るかも知れません」  詩織莉さんは納得したように頷いている。そしてオレが「お電話はこちら」と書かれたところをタップして発信しようとしたら、長くて綺麗な指で手首を掴んできた。 「あの病院は芸能人とかセレブとかも御用達のトコなの。  まぁ、私は縁がないのだけれど。だから院長にどうしても話したいと思うんだったら私のマネージャーってコトで電話すれば良いと思うわ。海外で施術をして貰った部分が痛んで困っているとか何とか言って、院長先生のお力をお借りしたいとか言えば携帯の番号とかを教えてくれるかも知れないわね……」  確かに詩織莉さんの知名度とか人気を借りた方がスムーズに話しが進みそうだった。 「有難うございます。そうします」  美容整形もお客さんの中では赤裸々に語ってくれる人が居て――まあ、アルコールのせいかも知れないが――例えば豊胸手術に使われるシリコンは堅くなって取り換えが必要とか、その取り換える前に体内で破けてしまうとかいうリスクが有るらしい。そういう緊急事態だ!ということにすれば、そして詩織莉さんという新規で優良な顧客を獲得するためにも携帯電話くらいは教えてくれそうだ。 「5つに絞れたのね。見ても良いかしら?」  詩織莉さんは恭子さんの方へと向き直ってPCの画面を見ている。 「もちろんです。グーグルマップで建物の外観までは分かるんですけど、リアルタイムじゃないのが欠点ですね。もう!グーグルなんて物凄く儲けているのだからその程度の設備投資をキチンとして欲しいと思うわ!」  詩織莉さんの方へと画面を向けて苛々しているのが丸わかりな感じでタバコを吸っている。 「あ、もしもし、院長先生はいらっしゃいますか?」  電話に出たのが男性だったので――オレは自分で言うのも何だが幸いなことに親から貰った顔が良いために美容整形など必要は全くなかったし、縁もゆかりもないが、何となく女性が出るイメージが有った――事務員とか下っ端だと判断して何を話せば良いかと素早く頭を回転させていると、意外な答えが返って来た。 『院長は私ですが?』  そう言えばこの尊大な感じのする声に聞き覚えが有った。 「ああ、昨夜はお楽しみでしたね……。秘密の『恋人』との行為とか、複数プレイが出来てご満悦のご様子とか。  実は、観客席にもカメラが備え付けてあったのですよ。舞台の上だけでなくて……」  電話の向こうで絶句する気配がした。 「そして既にその画像は入手済です。先生が汚いケツを振りたくっている……もちろん『お相手』の性別もはっきりと分かるシロモノです。  その楽しそうなパーティの様子をマスコミだけでなくて、動画サイトに流しましょうか?  最近はモザイクなしの『そういう』動画がアップロードされる時代ですからね。  もちろん、マスコミにもリークしますし、実名も出します、先生の。  『実録!愛人のお尻の穴を掘っている美容整形外科の――先生』とかのタイトルを付けて。一部のマニアしか見ないとは思いますが、先生ほどの方ならご存知でしょうが、ネガティブなモノの方が広まりやすいらしいですね。奥さんの耳にもきっと届くでしょうし、ご商売にも差し障りが出るのではありませんか」

ともだちにシェアしよう!