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第84話
「もしもし、居場所分かりましたか?」
気が急いているので挨拶とかはすっ飛ばして本題に入った。
『ラインが通じていてね。今は新宿のパ○クハイアットに居るらしい。ほら、例のショーの『主役』をどうしても抱きたいと言っている連中とか、それを見て愉しみたいとかいう趣向のパーティらしい。
その特別ゲストとして呼ばれたそうだ。
知らなかったとはいえ、私も参加……」
そう言えばこの院長先生もユキの痴態を見て物凄く喜んでいた記憶があった。
「大変……!『そういうコト』を強制されちゃうの?早く助けに行かなきゃ!!」
恭子さんが慌てたように言った。
「そうですね。
あっと、部屋番号は分かりますか?」
新宿なら近いし、ユキがメールをして来たのはそんなに経っていない。だから一刻でも早く駆けつけたら何とかなるような気がした。
「部屋番号は――だ。『パパも合流するなら参加費100万円を持って来れば大丈夫だよ』とか言っていたので。
残念ながら今から超VIPの患者さんがいらっしゃるのでこの病院を離れるわけにはいかないが……」
そんなことはどうでも良い。部屋番号と100万円で参加出来る――ユリはお金にも物凄く執着しているのだろう。
新宿のパークハイアッ○はオレがまだまだ新人だった頃に枕をしていた太いお客さんがそのホテルを気に入っていたのでちょくちょく一緒に行ったことがある。
だからその部屋番号がいわゆる最上級レベルの部屋だと言うコトも知っている。
部屋の中にグランドピアノも置いてあるし、そこいらのショボい映画館よりも大きなテレビが備え付けられているとか聞いている。
集まる人数は20人ほどだろうか?部屋の大きさからするとそんなモノのような気がした。
そういうパーティならば、今からお客さんを募っているような気もした。何故ならユキが主役と銘打っているということは肝心の主役を無理やり連れて来なければそもそもが成り立たないからだ。
「分かりました。ご協力有難う御座います」
スピーカー機能にしていたので、オレと院長先生の話は詩織莉さんや恭子さんも耳を澄ませて聞いていた。
「動画をマスコミや『そういう』サイトに流さないともう一度約束して欲しいのだが……」
そもそもそんな動画は持っていないので流しようもない。しかしハッタリとはいえ、そう言って揺さぶりを掛けたのは事実だった。
「勿論、約束は守ります。この画像は全て消去します」
詩織莉さんは部屋の番号をエルメスの手帳にメモってくれていたのをこの目で見た。
「今から行きましょう。取り敢えずは『お客』として迎え入れて貰うという作戦で。
それが駄目ならホテルの人間にチクります。
どこのホテルも反社の人間を泊めないとか聞いていますし、そういう『いかがわしい』パーティに――少なくとも表向きはNGらしいので」
実際には財界の大物が開くパーティに有名お情様大学の学生が「そういう」目的で呼ばれているという話は聞いたことが有った。何でもそのお小遣いが20万円だとか。有名お嬢様大学でも「そんな」パーティに出るなんて内心呆れてしまったが、実際問題としてはやはり秘密厳守で20万円は女子大生にとっては美味しい話しなのかもしれない。
裕福な家庭に育った女性だからと言って皆が大和撫子ではないんだな……と冷めた心で受け止めてしまったが。
「あ、車を調達して来ますね。オレのは二人乗りですし、無事にユキを救出出来た場合でも他人には晒せない姿になっている可能性も高いですので……」
ファミリータイプの車に乗っている同僚は誰だったっけ?と忙しく頭を動かした。
「確かにそうだわね。ただ、パークハイアッ○レベルになると、車も見られて値踏みされるわよね?
だったら、国産車じゃなくって、ベンツとかロールスロイスをかが良いのではないかしら?」
パークハイア○トは、高層階のみがホテルなので一棟丸ごとの一流ホテルのように車寄せにいわゆる高級外車しか停まっていないということはない。
しかし、やはりどんな車に乗っているかとか、腕時計などはチェックされているようだった。
詩織莉さんは自分のスマホを紅くて長い爪で器用にタップしている。
「何だか、私の情報が見当違いだったみたいでごめんなさい」
恭子さんが申し訳なさそうに謝ってくれる。
「いえ、それは仕方ないですよ。むしろ協力して下さったので本当に感謝しています。
多分ですが、そういう反社リストは警察からの提供ですよね?だから警察も建物をマークしている可能性が高いので、そういう『ショー』、しかも大量のお金が動くモノに関して敢えて避けたのかもしれません。
ユキの『ショー』は『無理やり』になるので、そこに踏み込まれたらアウトですので」
言いながら唇が寒くなった。
「無事だと良いんだけれど」
恭子さんも同じように考えているらしい。
「惚気ですが、ユキは賢いし肝が据わっています。だから助けに行くまで何とか時間稼ぎをしてくれていると信じたいです……」
詩織莉さんが誰か――多分マネージャーとかだろう――に「大至急ベンツのリムジンを回して頂戴。あと、300万円も持って来て」と言っている。
参加費用が100万円なので、三人で乗り込む場合は300万円必要だ。そのお金を手持ちでは持っていないのかもしれない。ちなみにオレも銀行に行けば――と言っても今の時間は閉まっているが――300万円なら余裕で下せる。
ただ、緊急性が高いのでここは詩織莉さんに任せよう。
「そうね。『ドラレーヌ』の玄関前に着いたら私の携帯に連絡して貰うように運転手さんに言っておいて貰えるかしら?
早ければ早いほど良いの。宜しくね」
通話を切った詩織莉さんが苛々した表情ながらも嫣然と微笑んだ。
まさに女王様の貫禄といった感じで物凄く頼もしい。
「ああ、先にお支払いしておくわ」
詩織莉さんが現金を取り出そうとしている。詩織莉さんにとっては何でもない額なのかもしれないが、店中のお客さんに振る舞ったシャンパン代金もバカにならない金額だ。
ユキのことを思ってそうしてくれているのだろう。オレにとっても有り難いが。
「ハイヤーが来たそうよ。急ぎましょう」
詩織莉さんが優雅に立ち上がった。モデルとしての訓練を受けている天井から見えない糸で引っ張られているような歩き方で店の階段を下りる。
奢って貰ったお客さんとかホストから拍手を受けて晴れやかな笑みを零している。
内心はそれどころではないだろうが、オレと同様に。
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