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第99話

「厚労省のマニュアルでは三日と書いてありますが、患者様の場合は二日で大丈夫だと診ていますが?  ただ、その間は一時も目が離せないですよ」  オレの考えが分かったのか、念を押すような感じの口調だった。 「マンションの一室でというのは可能でしょうか?  百歩譲ってこの病院にお世話になるというのでも良いのですが……」  出来れば、オレがずっと付きっきりで見ていたいという気持ちの方が強かった。  しかし、それが無理であるならば、新田先生とかこの高級ホテルのような病院で二日間お世話になった方が良いだろう。刑務所のような場所にユキを送り込みたくない一心だったが。 「二日間、具体的に申し上げれば48時間付きっきりで面倒を見るだけのことは可能ですか?  睡眠も取れないですよ、それ以上のことも勿論出来ないですけれど……」  48時間だったら何とかなりそうな気はする。 「要は付きっきりで見張っていれば良いということですね。それなら何とか出来そうです。具体的にどうすれば良いのでしょうか?」  錯乱したジャンキーらしき人間も――オレは遠くから眺めているだけだったが――たまに見かけるのが歌舞伎町だ。  ああいうふうになるユキを見るのは心が潰れるほど痛いだろうが、ユキには全く落ち度がないし、恋人としての義務のような気がする。 「暴れることも有るかも知れないので、一応ロープなどで固定はしておいた方が良いと思います。後は――」  事務的な声が却ってコトの深刻さを強調しているような気がして暗澹たる気分になった。 「患者様の昨日と思しき性行為は――えと……」  新田先生は何だか「しまった」というか失言に気付いたような感じで口ごもった。  オレが相手ではなかったらどうしようかと思っているのだろうな……と思ってしまったので、柔らかな微笑みで返した。 「ああ、それは私との行為です。だからお気になさらずに続きを仰って下さい」  安心した感じの新田先生が言葉を続ける。  この広尾の病院勤務の人は――何でもお金持ちの方が性的にも奔放とか聞いたことが有るので、そういうのにも「マニアックな性行為」も慣れているのかもしれない――何が有っても動じないという感じだったが、詩織莉さんからオレとユキのことを聞いているのかもしれない。  そして、ユキの可愛らしい穴――昨夜の時点では紅色に染まってぷっくりと膨れていて物凄く綺麗だった――も「医師として」チェックしたのだろう。 「その後、薬物を塗り込んだと思しき感じで開いていました。  こちらの方は、完全に除去しましたが、多分アダルトグッツのお店で売っている大きめの「そういうおもちゃ」に薬を塗り込めて挿入された可能性しか思い当たりませんが……」  ユキの身体を運んでいる最中に強張っていたのは、そういう「おもちゃ」を挿れられたからかも知れない。  ユキにとってはそれが、オレに対する裏切り行為とか思っているような気がする。 「失礼ですが、お住まいは一戸建てですか?それともマンションですか?」  新田先生は無駄なことは聞かない人っぽかったので、この質問にも何か意図があるのだろう。 「いわゆるタワーマンションの最上階ですが?」  オレのいでたちを見て納得するように頷いた新田先生は、厳しい表情を浮かべている。  最上階だったら尚更危険です。飛び降りる可能性が有りますからね。  私は最上階ではないですが、タワマンに住んで居ます。間取り的に窓とかないお部屋もあるようですよね?」  確かに物置めいた部屋は有った。殆んど使っていないが。  そして、オレの部屋から飛び降りてしまったら、確実に死に至る高さだと例の女医さんも言っていたので、新田先生もその点を心配しているのだろう。 「物置めいた部屋が有りますので、そちらにユキを置いて48時間一緒に居れば良いわけですよね?」  その程度のことは出来そうな気がした。  まあ、店を休むことになるのは仕方ないし、それで不動のナンバー1の座を2とかに取られても巻き返しは充分に可能だろうな……とか頭の中で考えた。  オレを待っているお客さんは――本当に細い客でも有り難いと思うし、売り上げ面でも今の段階で圧倒的に勝っているので――その程度のことでオレのことを見捨てたりはしないだろうという確信は有ったし。 「ああ、患者様はいわゆるセック○ドラッグを体内に注射か何かで入れられています。  そのせいで皮膚が異常に敏感になっている上に、直腸も『そういう意味』で開発されていますよね?  ですから、貴方にも『そういう行為』を強請る可能性が極めて高いです。  しかし、薬が効いている状態で行う『そういう行為』は物凄くイイらしいですので、それナシでは居られない身体になってしまったりすると目も当てられません。  48時間以内に『そういう行為』をしない方が、患者様の後々のことを考えた上で良いと思いますので……」  新田先生はそういう下ネタを話している時の卑下した笑みとかそういうのは一切なくて物凄く事務的に話してくれた。  確かにドラックで意識がぶっ飛んでいる時に「致して」しまうと、それを身体が覚えているとか聞いたことがある。  48時間の間にユキが誘って来ても応じない方が良いのはオレにも分かった。 「了解です。身体の敏感な部分を触るとかもダメでしょうか?」  ユキが48時間の「魔の時間」を経過するまでは、どういうふうに接して良いのかも分からない。  その点はキチンと聞いておいてマンションに閉じ込めるようにしようと思ってしまう。 「出来れば一切触れないのが良いとは思います。  しかし、肛門の奥の直腸とかそちらの方によりいっそう効く薬ですので、いわゆる性感帯だけを触れる分には大丈夫かと思います。  いわゆる「フルコース」をしないだけで大丈夫かと思うのですが。  つまりアナ○関係は絶対お勧め致しませんが、それ以外だとギリギリセーフといった感じですね。  なるほどと思ってしまった。  ユキは昨夜からのオレとの行為で――普通はあんなに感じるようになるには時間と、そして場数が必要なのに――「そっち」を使っての行為が一気に花開いた感じだった。

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