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第101話

「どれほど「そういう」行為を欲しがっても与えてはなりません。特にアナ〇に対しては。  アルコール依存症の患者様もそうなのですが、身体的依存にまで進行してしまうと、アルコールが切れた時に身体中にアリが這いまわるような幻覚などが出ます。そうなるとアルコールが欲しくて仕方なくなりますし、少しでもアルコールが入っているミリンとか香水まで飲んでしまうという事例も多数報告されています。  性行為の時にその快感を覚えてしまったら、薬なしでは患者様が欲する快楽を得ることが出来なくなります」  新田先生の淡々とした張りのある声が重厚な感じのする部屋にむなしく響いているような気がした。 「つまり、薬が効いている48時間の間に、最後までしてしまうとその時の強烈な快感が忘れられなくなって、薬なしではそのレベルにまで達しないので物足りなくなるということですか?」  セック〇ドラックとか覚せい剤――何でも化学式は似ているし、忌々しい効果(?)もほとんど同じとか、ともすればセッ〇スドラックの方が高いとかいうウワサも聞いている。  同僚が使っていないことを祈るばかりだ。ウチは歌舞伎町でナンバー1のホストクラブという評価も高いし、当然法律もキッチリと守っている。  そうでなければ芸能人とか会社経営者のお客さんは来なくなるのだからある意味当然のことだが。  だから、麻薬がらみの犯罪が摘発されてしまうと客足は激減するだろうし、ナンバー1の格式が地に堕ちてしまう。 「その通りです。人間の脳は基本的に積み重なっているんですよ、生物学的に。感情とか痛みなどは猫とか犬にでもありますよね?  ざっくりとですが、そういう犬や猫の脳の上に理性とかを司る部位が乗っているというイメージです。下の方が拘束力というか影響力は強いのです。  ですから、快楽といういわば猫や犬にも有る本能的なものは理性よりも優先して処理するようになっています。  一度、薬によって引き起こされ増幅された悦楽を覚えてしまうと、それ以降はその快感を求めてしまうのです」  覚せい剤で何回も逮捕される芸能人も居ることも当然知っていたし、それは身体的な依存のせいかと勝手に思っていた。  タバコだってずっと吸い続けていると、ニコチンが切れた時には早くタバコが吸いたくてイライラするとかは周りのホストで喫煙者も大勢居るので聞いたことはあった。  その強力なヤツなのか?と素人考えながら思っていたが――ただ、覚せい剤なんて見たこともないし、どこか他人事だったのでさして関心はなかったが――セ〇クスの快感で一度物凄いのを感じたら、確かに薬を使わないでする「そういう」行為が物足りなくなってしまうのだろう。芸能人だって当然セック〇はする。それにイケメンや美女が多い世界なだけに「そういう」お誘いは一般人よりも多いハズだ。そしてその時に物凄い快感を感じてしまったら、それなしではいられなくなるというのも何となく分かる。  オレは「タチ」なので、出してすっきりすれば良い。出来ればちょうどいいくらいに締め付けてくれる穴があれば大歓迎というだけで、ユルユルとかだと正直萎える程度だった。  ユキの穴、新田先生も「昨日致したか?」と聞いてきたからには、まだぷっくりと紅く膨れているんだろうが、その穴「も」ユキを愛する理由の一つだった。ただ、ユキの魅力はいざとなったら据わる腹とか、窮地に追い込まれても何とかしようとする賢明さが一番目に来るが。  しかし、女性とか「ネコ」の場合は、いろいろな場所で感じているのも知っていた。それに精神状態も加わっているらしいし。だから、そういう総合的な快感を――しかも薬のせいで異様に敏感になっているのでなおさらに増幅されているらしい――与えたらクセになってしまうということかとやっと分かった。  新田先生もそういうことが言いたかったのだろうなということも。 「なるほど。良く分かりました。つまりは、48時間の間にアナ〇セックスをしてしまうと、それがいわゆるデフォルトになってしまって、それ以下の快感では満足出来なくなってしまうということですよね」  女性でも、元カレの暴力とか金遣いの荒さとかで別れたものの、そして、その後優しい男性や金銭的に堅実な人に出会えて付き合っているとかいう話は割と聞く。ただの惚気でも喜んで聞くが――それで幸せな気分になってくれて、シャンパンの一つでも追加注文してくれればこちらも嬉しいので――「夜の生活」の方は元カレの方が断然良かったし、今の彼氏さんとの営みの方は「感じているフリ」をしているだけで欲求不満だから自分の指で、とか「大人のおもちゃ」を使って一人で逝っているという話を聞いたことがある。  ユキは女性ではないものの、昨夜一晩ですっかり淫らに開花した身体の持ち主だ。穴とかその奥の確かS字結腸を――だと記憶しているが違うかもしれない――衝くと物凄く感じる身体になってくれた。その点に関しては素直に嬉しいが、これ以上の快感を「薬を使って」覚えこませるのは残酷過ぎると思った。  オレとの夜を過ごす上で花の開くように自然にもっと深い快楽を得てくれるのならばともかく。 「そうです。薬の効果を使った悦楽を一度覚えてしまったら、また薬に頼りたくなるのが怖いところです。  患者様ご自身が自ら慰める分には構わないです。お一人で出来ることは限られて――あ、失礼ですがいわゆるグッズを使うようなことは?」  新田先生はごくごく事務的に聞いてきたので答えやすい。というか、アダル〇グッズを使うこともしていないのでより一層口が滑らかに動く。 「いいえ、そういうモノは使っていないですね。ああ、最初に普通の薬局というかドンキの「成人コーナー」で売っているような薬は使われていましたが」  あ!ヤバい。使われてとか、他人事のように言ってはマズかったかと一瞬後悔した。  オレが使ったことにすれば、それは単なる恋人だけの密かな愉しみに耽っていただけだと思われただろうにと。

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