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第112話

「助けに来てくれてホントに有難う。シンこそが最高で、最上の王子様だよ。  僕にとっては……。  シンが好きだって言ってくれて、恋人になってくれた。その時にも物凄く物凄く嬉しかった。  初めて会った時から王子様みたいって思っていたけれど、今夜ちゃんと駆け付けてくれて、そしてさ、文字通り身体を張って助けてくれたんでしょ?  本当に有難う。   そして大好きだよ。  覚せい剤の怖さはちゃんと知っているし、うわ言とかも言うでしょ?  どんな言葉が出るか僕にも分かんないけど……、その時にシンに対するネガティブなコトを口走っても、それって全然思っていないことだから、気にしないで?  栞お姉さまに画像を見せられた時からシンのコト、カッコ良いなとか思ってたんだけど……。  実物はもっとカッコ良かったし、僕のことを好きってゆってくれて本当に嬉しかった。  それに二日間も一緒に居てくれるんでしょ?その感じだと」  ユキの澄んだ眼差しの向こうにはコンビニのビニール袋が置いてあって、しかもオレが乱雑に置いたせいで袋が半分ほどしか商品を覆っていない。  だからカ〇リーメイトとかの――ユキはもしかしたらカ〇リーメイトを知らないかもしれないが――非常食で分かったのかもしれない。 「分かった。47時間、ユキが何を喋ろうと全く気にしないことにする。  白馬にまたがって颯爽と現れない王子様だったけど、それだけは守るから……。  ただ、ユキが王子様だと思ってくれているのは本当に嬉しいし光栄に思う。  オレもユキを愛しているし、恋人になってくれて有難うって言うのはオレのほうだ」  そう言うとユキは白い胡蝶蘭のような笑みを浮かべてくれた。  新田先生が言っていた通りうわ言とか幻覚とかもあるらしかったので、ユキが思ってもいないことを言う恐れがある。  ユキもお父さんから「覚せい剤のヤバさ」を聞いていてそういう知識は有るらしい。  だから言ってくれたのだろうし――ユキは当然新田先生の話を聞いていないし、オレがどの程度の知識を持っているか分からないのでそんなことを言うのだろう。  セック〇ドラッグで朦朧としているのか多少は呂律が回っていなかったが、キチンと聞き取れた。  そして、ユキはオレが「誤解」しないように――新田先生からうわ言とかのことは聞いていたので47時間の間はユキが口走る内容は被害妄想とかからくる、精神病に似た症状だと分かってはいた――必死で言葉を紡いでいるのも健気だし、しかもオレのユキが好きな点の明晰さとか賢明さはドラッグが効いている今でも変わっていない。そういう強さを持っているのだなと思うと愛しさが尽きもしないしない泉のように心の中に滾々とわいてくる。 「リョウ……そろそろ覚せい剤が効いてきたみたい……」  そう告げるユキの綺麗な目が普段とは異なる感じで煌めいていた。  多分、素肌が敏感になったり、先ほど言っていた「理性が紅い靄で霞んでいる」という状態がさら酷くなったのだろう。 「分かった。ユキがどんなことを言ったり、したりても薬のせいで、ユキのせいじゃないって分かっているからその点は気にしなくてもいい。  とにかく早く薬が抜けると良いな」  ユキが白鳥のような趣きの首を縦に優雅に動かしている。  多分だが、聞こえてはいるものの、発音はユキの思いのままにならない状態なのかもしれない。 「リョウ……抱いて……抱いてくれないと……おかしくなっちゃいそう。  今すぐ、リョウの熱くておっきなモノが欲し……い」  乳首も先ほどよりもツンと立っているし「そっち」のモードに入ったのだろう。 「それはダメだ。  そういうのは47時間が過ぎた後にユキが『嫌だ』って悲鳴を上げるくらいしよう、な?」  聞こえているかどうかは定かでないものの、新田先生は「五感が異常に敏感になるとか言っていた。  聴覚だって確か五感に含まれていたような気がうっすらとした。だから聞こえていればいいなと思いながらそう言った。  ユキの手錠で繋いでいないほうの手が乳首を強く摘まんでは、捩じっている。 「ああ……っ!!イイっ……お尻の穴とか……前も触りた……いっ!!」  これなら暴れる心配も、そして――この部屋には窓もないし、先ほどの看護師兼救急車の運転手さんが部屋を専門的見地から少しばかり模様替えをしてくれている。  だから危険はないと判断して手錠だけは外すことにした。  自由になった手でユキは白桃のようなお尻を開いて、先ほどよりも紅くなったプックリした穴の中に指を挿れている。  普段のユキに似合わない早急な動きと粗野な感じが薬の忌々しい効果なのだろう。 「イイっ!!ここ、すごく感じるっ!!」  挿れた指の長さを考えると前立腺を弄っているのだろう。  こういう乱れっぷりは――もう片方は乳首を押しつぶす勢いで捻ってそのまま上下左右に動かしている――二人で愉しむ分には大歓迎だったし見ていても楽しいだろうが、今のユキのことを分かっているので心弾むどころか、心が痛んでしまう。 「ああ、イイっ……」   ユキは前と後ろを弄っては声を上げている。  紫色の胡蝶蘭のような乱れ具合――それが華麗であればあるほどオレは無残なモノを見るような気持がした。  喩えとして正しいかどうかは分からないが、何だかウチの店に飾ってあるような大輪の花が枯れてしまった後に――店の花は契約している花屋さんのスタッフがアレンジメントをしてくれるが――首を折った薔薇の花なんかをスタッフとか同僚とかがお客さんの目に触れないように引っこ抜くことはある。そういう花のような感じで全く心が弾まない。 「リョウ……イイっ…イイよぉっ……!!  リョウのおっきくて……長くて……硬いのを挿れてっ……欲し、いっ!!」  指を激しく出し入れしながら切れ長の瞳から涙の細い川みたいに流して懇願してくる。  普段ならば物凄く嬉しい「お誘い」だし、ユキの紅色に染まった身体とか、その身体から流れている汗までもが甘い香りに満ちているような気がした。  そして壮絶な色香も。   正直拷問だよな……と思いながら見守るしか出来ないことをとても歯痒く思った。 「ダメだ。ユキがする分には止めないが、オレは今のユキに触ってやれない。47時間後なら大歓迎だが」  心を鬼にしてというのはこんな感じなのだろう。 「やだっ……リョウのが、欲しいっ……。欲しいよぉっ!!」  薄紅色に染まった綺麗な顔に汗と涙を零しながらそんなことを言われると理性がぐらつきそうになった。

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