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初めてのミーティング2

 学園案内が終わった後、友也と離れるとすぐに悠馬は彼の親衛隊に取り囲まれた。そして体育館裏に来るように言われた。悠馬は胸が高鳴った。親衛隊は男性でありながらも、小柄で可愛らしい顔立ちの者ばかりだったからだ。  友也と悠馬は確かに悩みを分かち合っていた仲だったが、悠馬は友也と共有していない苦悩をふたつ抱えていた。それは悠馬の性的嗜好に関わるものだった。彼の歪んだ趣向は幼少時から繰り返されていた母の不倫に起因するものかもしれなかったし、見栄っ張りな父のせいで人生に割りを食っていたせいかもしれなかった。  悠馬が親衛隊に好意的だったのは、この悩みのうちの一つが要因だった。悠馬は、思春期を迎える頃には同性にしか恋情を抱けなくなっていたのだった。それもいわゆる美少年がタイプだった。十代の男性アイドルポスターをこっそり集めていた悠馬にとって、親衛隊のメンバーはあまりに魅力的に映った。  そして指定の体育館裏へスキップしながら向かったところ、冒頭のような事態となった。実のところ悠馬は友也のファンでもなんでもなかったし、友也のことは純粋に友達だと思っていた。あのとき口走ったような大層な憧れなどは抱いておらず、ただただ親衛隊に入りたくなったがために話を飾り立ててしまったのだった。  まあ、嘘は言っていない。大げさに伝えただけだ。悠馬はひとり苦笑した。デスクをすっかり磨き上げると、雑巾代わりのタオルを替え、椅子を拭きはじめた。特に隊長の八雲氷雨が座る椅子は特別丁寧にみがいた。特別美しい人には、特別美しい椅子に座ってほしかった。 「精が出るな、デク」 すると特別美しい人が、会議室の白い扉を開けて現れた。 「デクは木彫りの人形、操り人形、くぐつのこと。役に立たず、気が利かないお前にぴったりのあだ名だと思わないか?」 「思います」 氷雨の皮肉っぽい笑みに対し、悠馬はにっこり微笑んで言った。そもそも木偶、でくはあだ名なんかではない。古来より日本で普及している伝統的な悪口だった。  気持ち悪っ、と氷雨が呟いた。それを聞いた悠馬の笑みはますます深くなった。

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