5 / 113

初めてのミーティング3

 悠馬が抱える悩みは、八雲氷雨と大変相性が良いと言っても過言ではなかった。氷雨にとっては不運なことかもしれなかったが、悠馬にとってはこの上ない幸運だった。氷雨が悠馬に冷たくあたればあたるほど、悠馬の喜びは増大していった。  そう、悠馬は同性愛者であるが、マゾヒストでもあった。彼には肉体的苦痛も精神的苦痛も、性的興奮をあおるものにほかならなかった。 「このあとの会議では何を話すんですか?」 「これに書いてある。ホワイトボードに写しておけ」 氷雨は鞄の中からクリアファイルを取りだし、悠馬に押しつけた。悠馬はそれを受けとり、内容を一瞥すると言われたとおりホワイトボードにペンを滑らせた。ほどなくして親衛隊のほか隊員が集まり、定刻に親衛隊会議が開催された。 「今日の議題は──毎年恒例のことだが、新一年生の暴走を止めること」 「中等部ですよね」 隊員のひとりが確認するように氷雨へ問いかけた。 「ああ。初等部からあがったばかりのガキどもだから、奴らは何にもわかっちゃいない。高等部にも一人、要注意人物がいるけどな」 ぎろり、大きな瞳で氷雨は悠馬を睨みつけた。悠馬は小さく肩を震わせてみせた。 「例年どおり四人一組でチームを作り、制裁を行う。ただしデクは僕と二人一組だ」 「隊長と?」 悠馬が聞き返した。 「僕の目を盗んで桐生様にひっつかれたらウザくてたまらない」 氷雨はわざとらしく舌打ちを混じえて言った。悠馬はゆるむ頬を自分で叩き、眉をきつく上げた。 「わかりました。隊長の足を引っ張らないよう励ませていただきます」 「ばーか、お前の存在自体がもともと邪魔なんだよ。この足かせデクの坊」 「ひゃい……」 「わかればいいけど?」  悠馬が喜びのあまり返事がうまくできなかったのは、さして気にもとめられなかった。氷雨が語尾を上げ、身をひるがえすと、彼の服についていた桜の花びらがひとひら床へ落ちていった。

ともだちにシェアしよう!