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初めてのミーティング3
悠馬が抱える悩みは、八雲氷雨と大変相性が良いと言っても過言ではなかった。氷雨にとっては不運なことかもしれなかったが、悠馬にとってはこの上ない幸運だった。氷雨が悠馬に冷たくあたればあたるほど、悠馬の喜びは増大していった。
そう、悠馬は同性愛者であるが、マゾヒストでもあった。彼には肉体的苦痛も精神的苦痛も、性的興奮をあおるものにほかならなかった。
「このあとの会議では何を話すんですか?」
「これに書いてある。ホワイトボードに写しておけ」
氷雨は鞄の中からクリアファイルを取りだし、悠馬に押しつけた。悠馬はそれを受けとり、内容を一瞥すると言われたとおりホワイトボードにペンを滑らせた。ほどなくして親衛隊のほか隊員が集まり、定刻に親衛隊会議が開催された。
「今日の議題は──毎年恒例のことだが、新一年生の暴走を止めること」
「中等部ですよね」
隊員のひとりが確認するように氷雨へ問いかけた。
「ああ。初等部からあがったばかりのガキどもだから、奴らは何にもわかっちゃいない。高等部にも一人、要注意人物がいるけどな」
ぎろり、大きな瞳で氷雨は悠馬を睨みつけた。悠馬は小さく肩を震わせてみせた。
「例年どおり四人一組でチームを作り、制裁を行う。ただしデクは僕と二人一組だ」
「隊長と?」
悠馬が聞き返した。
「僕の目を盗んで桐生様にひっつかれたらウザくてたまらない」
氷雨はわざとらしく舌打ちを混じえて言った。悠馬はゆるむ頬を自分で叩き、眉をきつく上げた。
「わかりました。隊長の足を引っ張らないよう励ませていただきます」
「ばーか、お前の存在自体がもともと邪魔なんだよ。この足かせデクの坊」
「ひゃい……」
「わかればいいけど?」
悠馬が喜びのあまり返事がうまくできなかったのは、さして気にもとめられなかった。氷雨が語尾を上げ、身をひるがえすと、彼の服についていた桜の花びらがひとひら床へ落ちていった。
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