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中等部をけん制1

 春の匂いは好きだった。調子に乗って深呼吸などすれば、たちまちくしゃみが出てしまうのだけれど。悠馬は花粉症だった。 「へっくしょ!」 「うっわ、ブサイクなくしゃみ。従兄弟なのにぜんぜん桐生様に似てないのな」 前を歩いていた氷雨が振り向き、あきれたように言いはなった。 「と……桐生様はお母様似なので、かけ離れた顔立ちになっちゃいましたね」 「いま桐生様を下の名前で呼ぼうとしなかったか?」 「めめめっそうもございません」 悠馬は大げさに首をふった。無難な茶色に染められた彼のショートヘアがうっとうしいといわんばかりに、氷雨は心底不快そうな顔をした。 「お前の顔さ、スクランブル交差点渡ったら何人も同じようなやつ見つけられそうだわ」 「お褒めにあずかり光栄です」 「褒めてないから」 顔をゆがめて舌を出しても、氷雨ならば童話の小悪魔のように見えた。さまになるのだ。仮に十人並みの容姿である悠馬がそうしてみたら、きっと175cmの身長もあいまってひどく滑稽なものになるだろうことは明白だった。  親衛隊のミーティングがあった次の日。悠馬と氷雨のふたりは、友也に近づく中学生を排除するために渡り廊下を歩いていた。この渡り廊下を伝って、中等部の連中が生徒会役員へアプローチしてくるからだ。 「でも中等部から高等部の校舎に来るのっていちいち書面を出すんですよね。わざわざ、生徒会役員と話せるかもわからないってのに」 「それでも桐生様を一目お目にかかりたいのだろう。僕と同じように」  氷雨は目を細めた。彼に不似合いの生ぬるい風が吹いたような気がした。伏せたまぶたが小さく動いたのは、何かを思い出したからだろうか。友也と同い年の彼でも、氷雨にとって友也は遠い存在だったのだろうか。  そんな氷雨を見ていたら疎外感にとらわれそうな気がして、悠馬はふっと目をそらした。そして目に飛び込んできた光景に、自分の仕事を思い出した。 「あっ、あのちっちゃい子。桐生様にベタベタしてる!」  あどけなさの残る生徒が、物陰で友也に駆け寄っていた。死角だからか他にも友也を見守っているだろう親衛隊員も、まだ気がついていない様子だった。 「僕の前で桐生様に近づこうなんざ百年早いね」 言うやいなや氷雨は腕まくりをし、彼らのもとへ駆けだした。悠馬もあわててそれに続いた。

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