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中等部をけん制2

「君、ちょっといい?」 氷雨は口角を上げて中学生に問いかけた。彼の隣にいた友也は声の方へと向いたかと思うと、目を丸くして氷雨と悠馬を見つめていた。悠馬に何か言いたそうに口を開きかけたが、続く氷雨の言葉を優先して発声をあきらめた。 「役員でもないいち生徒が、生徒会長と軽々しくお話するなんて非常識なんだよ」 「そんな……」 うろたえる中学生。 「桐生様も迷惑されているのが、表情を見てわからない?」 悠馬は友也の顔を見た。細かいことはわからなかったが、なんとなしに疲れているように見えた。そのうえ友也は、氷雨の忠告に対して割って入ることも、嫌そうなそぶりも見せていなかった。ただ口を結んでいるだけだった。  悠馬はそんな彼の態度が意外に思えた。正義感の強い友也のことだ、どちらかというと中学生の肩を持ちそうなのに。  首をひねった悠馬だったが、ぼさっと氷雨を見ているのも職務放棄のように思えたので、加勢することにした。 「隊長のおっしゃるとおりだ。人の嫌がることはするなって、初等部でも先生に教わっただろ?」 先輩風を吹かせて言ってみたら、おいおい……と、友也の小さな呟きが返ってきた。 「ごめんなさい。僕、桐生様のこと不快にさせてたなんて、気づかなくて」 中学生の声は震えていた。悠馬はなんだか悪いことをした気分だった。いや、充分悪いことなのだろうけれど。だってこの忠告は、親衛隊側の身勝手な行動に過ぎないのだから。生徒会役員に話をしに行こうが、極端なところ生徒会役員といい仲になろうが、本人の自由なんだ。本当はね。 「気づかなかったなんて言い訳にもならない。今度こんなまねしたら、きっついお仕置きしてやるよ」 特にきっつい、の発声に怨念じみたものがこもっているような気がした。それを察してか知らないが、中学生は震えあがって逃げるようにその場を去っていった。もっとも、お仕置きされたがっている変態には、こんな手段は通じないのだが。悠馬はこの場で一人だけ、あの中学生をうらやましく思っていた。  ちなみにほか数人、距離をおいたところで友也をちらちらうかがっていた中等部の連中がいた。しかしいつの間にか彼らも姿を消していた。 「隊長ー、ぼくらも中等部追っ払いましたあ」 「こっちもOKですー」 間のびした口調で言いながら走り来る影があった。親衛隊員たちだった。中学生が全員いなくなったのは、彼らのはたらきのおかげだったようだ。氷雨は彼らの報告を受け、そちらのほうへと歩きだした。 「おつかれっ、え?」 悠馬も氷雨に続こうとしたが、それはかなわなかった。友也が悠馬の腕を掴んだからだった。

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