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おしおきはご褒美2
腕立て伏せの回数を重ねるたび、荒くなっていく悠馬の息。隊員たちの同情の目などそしらぬ顔で、教科書を何冊も抱えた氷雨。
「ギブ?」
「ま……だ……」
「だよなあ」
そう意地悪く言った氷雨は、どこかやけになっているようにも見えた。教科書を持つ彼の手が足りなくなったため、隊員を呼びつけて今度は薪とロープを持ってこさせた。隊員は器用にロープを氷雨の身体にくくり、薪を一本載せた。二宮金治郎像をまねた悪ふざけだった。
お似合いです隊長、と親衛隊員の誰かが言った。青ざめた顔で青ざめた唇で言ったのだった。しかしそんな彼らの心境などわからなかった悠馬は、「お似合い」な氷雨の姿を見てみたいとだけちらと思いながら、腕立て伏せを続けたのだった。
悠馬の罰は、隊員たちのじゅーうよーんのかけ声とともに終わりをつげた。とうとう重さに耐えかねた悠馬は、腕を曲げることができなくなってその場で態勢を崩してしまった。本能よりも先に身体の限界がきたのだった。潰れたかえるのようなポーズの悠馬を、氷雨は残酷に笑った。
「根性ねえなあ。そんなんで桐生様を守れると思ってんの」
「思、えま……せん……」
悠馬はのどの奥から声をしぼりだして答えた。それを耳にした親衛隊員はざわついた。彼らは当初悠馬に怒りをおぼえてはいたものの、氷雨の強制した腕立て伏せについては、やりすぎだと内心思っていたからだった。
「もっと、俺に、罰を……ください……もっと」
「そ」
氷雨は瞳をにぶく光らせた。薪を下ろし、くくられていたロープを悠馬の口もとに差しだした。
「噛めよ」
「よろ、こんで」
悠馬が答えると氷雨が顔を思いきりゆがませた。これだけは彼のプライドでもって拒絶するだろうと思っていたのに、あてが外れたからだった。
悠馬はロープを口にし、そしてえずいた。親衛隊員の何人かは悲鳴とともにその場にひざをつき、何人かは震えていた。
氷雨はこれ以上のショーは何もおもしろくないと判断したのだろう、むせる悠馬を蹴りあげて第一会議室をあとにした。
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