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初夏にふる雹3

「いくら英語のできる八雲だって、アメリカ英語は知らないものがありそうじゃないか」 ずばり友也は言った。氷雨は顔をあげられなかった。ほほを真っ赤にそめ、下唇をかんでふるえていた。 「修学旅行先のニューヨークで、実際にどういう英語を使ってるのか見聞きして、きちんとアメリカ英語を知る必要があるとおもうよ」 友也の正論を聞き終えないうちに、氷雨は教室を飛びだしてしまった。担任の教師だけが氷雨の後を追った。  わあっ。一気に笑い声と歓声があがった。緊張の糸が切れ、誰もがふうと息をはいた。 「友也くんすごーい。よく英語の違いを知ってたね」 「俺は児童書のドラゴンシリーズが好きなんだけど、英国版が一番リリースが早いから先にそれで読んじゃうんだ。待ちきれなくて。でも、最近米国版限定で加筆されたものが出たから買ってみたんだよ。そうしたら同じ英語なはずなのに、単語が違うものがあったんだ。たまたま気づいただけ」 淡々と友也は答えた。同級生に尊敬のまなざしを向けられたというのに、さして嬉しそうではなかった。 「僕もドラゴンシリーズ好きだけど、和訳版しか読んだことないよ。やっぱりトモくんはすごいや」 「ほんとほんと、さっすが友也くん!」 盛りあがるクラスメートと反比例するように、友也は苦い顔をしていた。  少しやりすぎただろうか。友也はただ、アメリカに行ったことがない生徒、もしくは友達とあらためてニューヨークを回りたい生徒や、本場の英会話を学びたいと強く願っていた生徒たちの思いを踏みにじりたくなかっただけだった。  しかし結果、氷雨を悪者に仕立てあげてしまった。高慢で賢しい氷雨のことだ、今回の件で彼はとてつもない侮辱を感じたに違いなかった。  家柄のこともあるが、そんなことより俺が謝りに行きたい、行かなければ! 友也は帰宅後親に事情を話し、こっぴどく叱られた。  翌日の土曜日、友也の強い要望どおり彼は両親を連れて氷雨の家へ向かった。寮生活は中等部からはじまるため、初等部のころはまだおのおの自宅に住んでいたのだった。

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