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初夏にふる雹4

 八雲家の邸宅は大きく、広そうで、外観からでも部屋数が多いのが見てとれるようだった。友也の自宅もいわゆる豪邸と呼ばれるものだったが、氷雨のこれには代々政治や士業にたずさわる者としての歴史を感じさせる威厳があった。  車庫にはどんな車が駐められているのか外からはわからなかったが、実用的な高級車がいくつも並んでいるのだろうことはなんとなしにわかった。  そして何よりも目立つのは、眼前にそびえる巨大な鉄格子めいた門だった。その威圧感は地獄の入り口のようで、幼い友也にはいっそう恐ろしいものに見えた。  友也の父がインターホンを鳴らそうと、門の横にあるボタンに触れようとしたところ、それを待たずに自動的に門が開いた。たずねることは事前に父から連絡していたからだろうが、さすが八雲家といったところか。 「桐生さんだね」 インターホンから聞こえてきた声は男性のものだった。横柄な口調でかつ怒気をはらんでいた。おそらく主人の八雲勉だろう。 「はい」 「昨日は氷雨が目をはらして帰ってきたんだよ」 「この度はご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございませんでした。できればお顔を拝見して謝意を述べさせていただきたいのですが、いかがでしょうか」 友也の父がへりくだった口ぶりで聞いた。するとインターホンからは、勉ではない高い話し声が短く聞こえてきた。どうやら氷雨の声らしかった。 「それは構わないが、氷雨は氷雨で子ども同士話がしたいと言っている。親と子、別々の部屋に通そう」 「わかりました」  友也の父はそう答え、母は手土産に持参した紙袋のひもをぎゅっと握った。友也も氷雨あてに持ってきたお菓子をかばんから取りだし、ちゃんと話そうと気合いをいれた。  氷雨の家へ入り、彼の親へ謝罪とあいさつをした後、友也はすぐに氷雨の部屋へ通された。氷雨はぶすっとむくれてベッドに腰かけていた。目元はまだ腫れぼったく、頬には涙のつたった痕があった。 「どうせ親に言われて嫌々来たんだろ」 開口一番、氷雨が言った。友也は眉根をよせた。 「ちがうよ、俺ちょっとやりすぎたと思って謝りに来たんだ」 そう言って口をとがらせながらも、友也は氷雨に持ってきたお菓子を渡した。ふざけたウサギのキャラクターが描かれた、センスの悪いチョコレート菓子だった。氷雨はそれを受けとってうつむいた。

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