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初夏にふる雹7
こうして氷雨はひとりぼっちになった。友也も、八雲の父の威を借ろうとする者も、みんないなくなってしまった。
しかし孤独なまま初等部を卒業し、中等部へ上がり初夏になるころには、氷雨はすっかりあか抜けていた。いつの間にか彼は、誰もが認める美少年となっていた。
すると氷雨を見る周りの目が変わった。初等部のころから氷雨は他の生徒にくらべて整った顔立ちをしていたものの、あの頃は誰もがみな容姿にうとかったからあまり気にされなかったこともあった。氷雨は誰もが平等におとずれる思春期というものに、救われたのだった。
「八雲くん、おはよう」
「おはよう」
せっかくされたあいさつに、氷雨はぶっきらぼうな返事をひとつ返した。
「ああ、八雲さん。今日もお美しい……」
氷雨がどんな対応をしても、端麗な見てくれがあれば許された。ここ最近は八雲勉の政治献金についてテレビや週刊誌も騒がなくなっており、事態が落ち着きを見せていたせいもあった。
それから、氷雨の視界には男同士で手をつなぐ生徒たちがいた。中等部にあがり、恋や愛に目覚めると、咲城学園の生徒は同性愛に走る者が自然と多くなっていた。
山奥でなかなか街に下りられない状況で、初等部から同性にばかり囲まれて過ごしたせいかもしれなかった。
「ねえ、桐生くんって好きな人いるのかな」
「わかんない。でも三年生の先輩がさっそく目をつけたみたいで、ファンクラブが作られたらしいよ」
「えっ、もう? まだ五月なのに」
「理事長の息子だし、美形だし、生徒会だし。そのうえ成績もトップだから目立つじゃん」
特に友也の人気はうなぎ登りだった。中等部の生徒会に入り、まだ雑務をこなしている彼だったが、噂では高等部の先輩にまで告白されたとか。けれども氷雨は前向きだった。今の自分なら友也もふりむいてくれる気がしていた。
そうだ、ファンクラブができたのならそれに入ろう。そして抜けがけするんだ。僕が友也とつきあうんだ──。
しかし氷雨の夢はあっさり破れてしまった。友也自身の手によって。
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