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不穏なウワサ1

 そうこうしているうちに中間テストの期間になり、悠馬は案の定、どの教科も赤点ぎりぎりの点数ばかりを取ってしまった。無理もない、このテスト期間中は氷雨に渡す板書のプリントを作るために奔走していたのだから。  先輩たちの使い走りをするのはなかなか楽しかったし、暇つぶしにはなった。しかし帰宅後、彼らに借りたノートをまとめてパソコンに打ち込み、印刷するという作業は、想像以上に大変だった。  先輩方のノートには、ミミズののたくったような字で記入されたものがあったり、また外国語の教科では筆記体で書かれて大変読みづらいものがあった。それらを解読するように目をこらし、一心不乱にパソコンに向かったのも、すべて氷雨のためだった。  氷雨はあのプリントを利用して、三週間のブランクを埋めることができただろうか。ほおづえをついて思案する悠馬の耳に、教師の声がようやく届いた。ホームルームが始まっていたのだった。 「再来週はお待ちかねの二、三学年合同遠足だ。おのおの三年生と相談の上、班を組むように」  担任の発言に周りが沸いた。この学園にはそんな行事まであるのかと悠馬は驚き、そしてふっとあることを思いついた。  悠馬はホームルームの後にスマートフォンを鞄から取り出し、咲城学園の非公式SNSサイトへアクセスした。そこにはまことしやかな噂や、うさんくさい真実や、食堂のおすすめメニューなどのくだらない話題がごちゃまぜに行き交っていた。  そこにまたひとつ、語りぐさが投じられた。それはたちまち広がり、噂が噂を呼び、数十分で誰もが真実と疑わないまでのものになった。 「SNS見た?」 「生徒会長やばくない?」 「親衛隊動くのかなあ」 さっそく例の話題を目にした生徒たちが、ぺちゃくちゃ喋りながら悠馬や他の隊員を見ていた。悠馬はさっそくスマートフォンのトークアプリを開き、その噂について親衛隊員全員に問いかけた。  もちろんその中には氷雨も入っていた。氷雨は悠馬の予想どおり、すぐさま返事をくれた。 『噂は本当なのか』 氷雨の焦りが見えた。悠馬もメッセージの投稿を続けた。 『わかりませんけれど、万が一事実になってしまったらと思うと、遠足では桐生様のおそばを離れられませんね』 『とにかく、親衛隊は第一会議室に集合とする。ただし、デクの佐野悠馬は来るな』 『隊長〜』 ふざけた波線を打ち込み、立て続けに泣いているネコを模したキャラクターの画像を送信した。氷雨の指示に従うつもりは毛頭なく、悠馬は第一会議室へ向かったのだった。

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