30 / 113

二、三学年合同遠足1

 第一会議室での会議とはとても言えないやり取りを終えた翌日、悠馬は同じクラスの親衛隊員に声をかけられた。 「あの、昨日は隊長とお会いするのが気まずくて行けなかったんだけれど、僕も桐生様が心配なんだ」 「そうだったんだね。昨日は結局俺と隊長しか集まらなかったんだけど、そこで仕方ないからバディを組んで桐生様をお護りしようって話になってたんだ」 「へ、へえ。隊長と二人組になるんだあ、じゃあ僕は後ろで見てようかな」  棒読みで言った彼に、僕も俺も、と他の親衛隊員も便乗してきた。最終的にその隊員たちと、同じように自己主張が薄い三年生の隊員と、悠馬と氷雨のメンバーで遠足の班をつくった。  遠足の日は天気予報どおりに雨が降ってしまった。先日梅雨入りが発表されたばかりだったから、仕方ないといえばそれまでだった。行き先は変更となり、彼らは日本一規模が大きい水族館へ向かった。  入館早々悠馬は巨大な水槽の中に泳ぐ、イワシの群れに目を奪われた。それはきらきら夢のように輝いていて、一匹一匹は小さいのにとても大きな魚に見えた。  イワシはもちろん見たことがあったが、こんなに優雅に泳ぐのは初めて見た。イワシの下にはタイの仲間が何匹も泳いでおり、入り口からここは竜宮城みたいだと悠馬は思った。 「おいドクズ、お前が見るべきは魚じゃなくて桐生様だろうが。それにこんな水族館、お前だって何度でも来てるだろ」 水槽にかじりつく悠馬の首根っこを後ろから掴み、氷雨が言った。彼の視線の先にはもちろん友也がいた。 「いいえ、ここには初めて来ました」 「日本で水族館って言えばここなのに? 一般人なら交通費や入場料が痛いと言うかもしれないが、お前の父親だって社長だろう」 氷雨は友也のことを細かく調べていた。彼自身の家族構成はもちろん、転入してきた従兄弟の家についても調査の例外ではなかった。 「破算寸前の貧乏社長ですよ。それに夫婦仲が悪すぎて、遊びに出かけるどころじゃなかった」 あっけらかんと言ってのける悠馬に、氷雨は何も言葉を返せなかった。代わりに悠馬へ軽い蹴りをくれてやった。 「あいたっ」 悠馬に思わず笑みがこぼれた。 「ならまた来ればいいだろ、今は桐生様に集中しろ」 「その時は隊長も一緒に来てもらえますか?」 「おーまーえーはー僕の話を聞いてた? 遠足終わったら関わるなって言っただろうが。……というか、お前やっぱり」 僕のこと好きなの? と続けそうになったが、氷雨は言葉を飲みこんだ。

ともだちにシェアしよう!