33 / 113

二、三学年合同遠足4

「なあ、八雲って化粧させて女物の服を着せたら女に見えるかな」 友也は津田に問いかけた。 「急にどうしたんだよ」 「疑問に思っただけさ」 「ふうん。俺の持論では、八雲に限らず、男は化粧ぐらいじゃどんなに美形でも可愛いニューハーフにしかなれないと思うぜ」 「それでもノンケにとっては男よりマシ?」 「いや、ノンケなら男より女のほうがいいに決まってるだろ」 「本物の女の子ね。八雲じゃ代わりにもならないか」  ほっとしたのもつかの間、それならば悠馬にとって八雲はなんなのだろう、と友也に疑問が浮かんでしまった。もしかして、もしかすると、氷雨は悠馬にとって、意外と気の合う兄貴分──?  それはさすがに思い込みがすぎるだろうと手を顔の前で振ってみても、一度考えついたことはすぐに消えてくれやしなかった。  もし万が一そんなことになっていたら、友也のポジションが奪われてしまう。カモフラージュ用の〝気の合う〟恋人まで作って、やっと保ってきた立ち位置だったのに。  友也は途端に悪寒が走り、自身の身体を抱きしめた。津田も別の何かを感じたようで周りを見回してみたが、そこには不審なものは何もないように見えた。  それぞれにどこか不安を抱えながらも、一向は奥へ進んだ。すると、サメばかりが展示されたひときわ大きな水槽が目の前に現れた。  頭部が丁字型のシュモクザメや、深海に棲むツノザメや、恐ろしい外見に反して性格は温厚なシロワニなど、映画で知られているような見かけの種類や一見そうと見えないものまで様々なサメがいた。  悠馬は目を輝かせた。こんなにたくさんのサメを見たのは産まれて初めてだった。あの大きな牙を見ていると、喰われてしまいそうでぞくぞくした。 「ドクズ」 サメに夢中な悠馬を見かねて、氷雨が声をかけた。 「はい」 「サメじゃなくて桐生様に集中しろ。好きなんだろ」 「好きです」  さらりと告げられた悠馬の嘘に、氷雨はひゅっと息をつまらせた。まるで自分に言われているかのような錯覚に陥ったからだ。氷雨はそんな自分を紛らわすために、悠馬の髪を引っぱった。 「いだいいだいいだい」 悠馬はこりずにまた嘘をついた。本音では痛みよりも、気持ちよさと嬉しさが遥かに勝っていた。 「うるさい。泣くまでやめない」 「たいちょ……う」 喜びの涙があふれてきそうになったが、悠馬は気合いでこらえた。泣いてしまったら止めになってしまうから。  そんなやり取りを、友也はたまたま見てしまった。痛いと叫ぶ悠馬は、さすがに戯れでそう言っているわけではないだろうと思った。 「八雲、やめろ」

ともだちにシェアしよう!