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二、三学年合同遠足6

 氷雨の目には柔和な態度を故意に作った友也がいびつに映ったかもしれなかったが、それでも氷雨は嫌悪などは抱いていないようだった。  悠馬も真っ先に氷雨をいたわりたかったのだが、友也がああしているため自分は何もできなかった。悠馬は罪悪感を抱え、嫉妬に奥歯をぎりりと鳴らしながらも、二人をぼうっと見ているしかなかった。 「なあ、従兄弟くん。なんで縄持ってたんだよ」 そんな悠馬に津田が声をかけた。単純に疑問を持ったからだった。 「たまたまです」 「たまたま水族館に縄持ってくんの?  つーかほどけない結び方も知ってたみたいだし、お前何者?」 「桐生様のために警護スキルを高めていただけですよ」 悠馬は、ここのところ定番になってしまった嘘で返した。真実はもちろん、いついかなる時でも氷雨に縛ってもらえるようにと持参したものだったが、そんなこと生徒会副会長にはとても言えたものではなかった。  津田からそらした視線は、自らのスラックスのポケットへ向いていた。そこにはスマートホンが入っていた──すべての元凶を作った指先で、悠馬はそれを取り上げた。  そう、学園のSNSに友也が襲われるという噂を書き込んだのは、他でもない悠馬だった。氷雨と親衛隊活動をしたかったがために、嘘を作って投稿したのだった。  まさか嘘が真になるなんて思わなかった。おそらく先ほどの男子生徒二人組は、悠馬のデマに便乗したのだろう。友也に悪いことをしてしまった。いくら彼が武道に長けているといっても、不意打ちや武器には敵わないことだってあるのだから。  今回襲ってきた男子生徒は幸い武器を持っていなかったし、あまり喧嘩は慣れていないようですぐのびてくれたが、危ないところだった。  氷雨と話し終え、やわらかな笑みをたたえてこちらに向きを変えた友也に、悠馬はスマートホンをふたたびポケットにしまった。 「悠馬もありがとう。まさか縄を持ってきてるなんて……それに、縛る手際も良かったし」 縛〝られる〟ために持ってきたんですけどね──とは返せずに、悠馬は曖昧に笑った。 「万が一のために持ってきていたんです。でも、危ない目に合わせてしまって申し訳ございません。八雲隊長がいなかったらと思うとぞっとします」 「俺のために、こんな重いものを、か。悠馬が謝ることはないよ、悪いのはあいつらさ」  友也に手をとられ、悠馬は罪悪感で心臓が押しつぶれそうになった。でもここで自白するわけにはいかなかった。  氷雨への恋心が知られてしまったら、氷雨から絶対に離れなくてはいけなくなる。きっとあっさり振られてすっきりサヨナラだ。まさに最悪な状況と言えよう。

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