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二、三学年合同遠足7

 そんなふうに自身の良心と卑しさがせめぎ合っていた悠馬は気がついていないようだったが、周囲は友也の態度の違いに動揺を見せていた。いくら仲のよい従兄弟だとはいえ、縄を持ってきていただけで手まで握るだろうか? 氷雨には礼を言っただけだというのに。  けれどその疑問はすぐさま、彼らの脳内で勝手に払拭された。例の彼女を思い出したからだ。地位も気品も容姿も兼ね備えた女性と、ただの従兄弟、しかも男。比べるまでもなかった。  この時点では、友也の真意は友也のみぞ知ることだった。  さて、こんな事件が起きてしまったせいで大変なタイムロスを喰ってしまった。一向は仕方なしに、早足でペンギンのいる砂浜へ向かった。  この水族館は海に面しているため、屋外スペースの一部分に砂浜が作られており、そこからペンギンが泳いで遊べるようになっていた。砂浜には一本のロープが張られており、ペンギンに触れることはできないものの、かなり近い距離でペンギンが見られると話題のスポットだった。 「隊長、ひとまずお怪我がなかったようで良かったです。お口、大丈夫ですか?」 ここでようやく氷雨に話しかけることができた。 「おかげで口が臭くなった、最悪。でも桐生様を守れたからな」 つばを吐く真似をして見せ、氷雨は満足そうに言った。  そんな彼の様子に、悠馬は喜ぶべきだと思ったのだが、どんなに胸元を握りしめてみてもそこは温かくならなかった。白いシャツに無様なしわが寄っただけだった。  気を取り直して悠馬はペンギンへと目を向けた。波のまにまに優雅に泳ぐ姿を間近で見ることができた。 「隊長、ペンギンが海を泳いでますよ!」 「よかったな」 「あとこの赤いリボンをつけたオシャレなペンギン、俺の近くにだんだん寄ってきてるんです」 悠馬が指差したのは、赤い輪を腕につけられたペンギンだった。それらはよちよちと悠馬の方向に歩いてきていた。 「フンボルトペンギンは人なつっこいらしいから、ドクズがドクズだってことがわからないんだろう。可哀想に。あとこれはリボンでオシャレしてるんじゃなくて、個体を識別するために赤い輪っかをつけてるだけだからな」 はしゃぐ悠馬に、氷雨は淡々と返した。氷雨はうんざりした顔で流し聞きしていたが、悠馬は氷雨の肩を時折叩いてひたすらに注意を惹こうとしていた。  友也はまた疎外感を抱いた。人なつっこくてものがわかっていないように見えたのは、フンボルトペンギンではなくて悠馬のほうだった。友也のために縄を持ってきたと言ったくせに、友也よりも氷雨と話しているときのほうが楽しそうに見えた。

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