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任命?1
無垢なペンギンには、個体識別用の輪っかなんかではなく、もっと確かなもので繋いでおく必要があるのではないか──。友也は自身の形の良い唇に指をそえて考えた。そして決意した。
動かなければ、何も始まらないのだから。
遠足を終えて週明けの月曜日、悠馬はため息まじりに登校した。友也には悪いことをしてしまったし、氷雨には金輪際関わるなと言い渡されてしまっていた。氷雨の信用を取り戻すことなど、果たして自分にできるのだろうか。
悩んでいても時間は過ぎるもので、ほどなくして朝のホームルームが始まった。
「突然だが、先ほど生徒会から申し出があった。午後は緊急の全校集会だ。昼休みが終わり次第体育館に集まるように」
担任の発言に教室じゅうが沸いた。全校集会ならば、ステージ上に立つ生徒会執行部の役員を思う存分目に焼きつけることができるからだった。普段は邪魔な親衛隊も、全校集会時には口出しできないのだから。
そうして午前の授業が済み、昼休みが明けた午後。体育館内は色めきだっていた。待ちに待った人物がステージの陰にちらと見えれば、悲鳴にも似た歓声がいくつもあがった。
「静粛に」
ステージの下で生徒会書記の大貫がマイクを片手に言った。眼鏡をかけた彼も、例にもれず十分すぎるほどに整った容姿をしていた。
大貫は自身に向けられる好意の視線にはもう飽き飽きといったふうで、観衆を眼光鋭くにらみつけ、体育館内をぴたりと静かにさせた。
やがてステージの幕が上がった。大貫の冷たい眼差しに、誰もが歓声を飲みこんで耐えた。そこに現れたのはピエロでもロックスターでもなく、友也だった。しかし彼はへたな芸能人よりも、ここの生徒にとっては魅力的な存在だ。おのおのが憧れや恋情の入り混じった視線をステージに送っていた。
「急に集まってもらって申し訳ない。俺の任期も残すところ半年を切っているが、生徒会の仕事は山積みだ。そこで、かなり中途半端な時期ではあるが執行部の手伝いを彼に頼もうと思う」
彼? 彼って誰? 声色は小さかったものの、生徒たちはざわめいた。しかし厳しい大貫も今度ばかりは注意できなかった。友也の発言のほうが無茶苦茶だと知っていたからだった。
「二年A組、佐野悠馬。ステージに上がってきてくれないか」
友也はまっすぐに悠馬を見下ろして言った。悠馬は彼の言葉の意味が一瞬理解できず、固まってしまった。なぜ俺がステージに呼ばれているのだ。
「従兄弟くん、従兄弟くん! いいから来いっ」
ステージのすそでひらひら手を振り悠馬を読んだのは、副会長の津田だった。彼のひときわ目立つ赤い髪に端正な顔立ちとスタイルは、いやでも目に入った。
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