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任命?2

 悠馬はわけもわからず生徒会の指示に従い、肩をすぼめながらもステージの上に上がった。 「佐野くんには生徒会執行部の下について、生徒会の仕事を手伝ってもらおうと思う」  体育館内がしん、と静まりかえった。一拍おいて、打って変わりそこは阿鼻叫喚の巷と化した。 「生徒会の手伝い!?」 「なんであんなブサイクが生徒会に!」 「そもそも佐野って生徒会長様の親衛隊じゃん。ずるい!」  悠馬は周囲からの罵詈雑言をうっとりと目を閉じて聞いた。まるでクラシックのオーケストラ演奏を聴いているかのように、おだやかな顔つきだった。自分を貶める言葉は甘く、刺激的で、官能すら孕んでいるように思えた。  平々凡々な顔だちの悠馬は、記憶に残らないほど地味なため、氷雨にくしゃみを咎められたことはあったが、わざわざ容姿をそう貶められた経験がなかった。ゆえに外見をブサイクと初めて言われたことに悠馬は感激していた。身震いをした彼の様子に友也は、生徒会に選ばれたことを喜んでいるのだと好意的に勘違いしていた。 「静粛に」 この光景が非常に異常に思えて、大貫は声を発した。その一言で目が覚めたのは悠馬だった。心地よい悪口にすっかり酔いしれてしまっていたのだ。ぱちりと顔をあげ、友也に顔を向けた。 「お待ちください桐生様! 俺には生徒会の手伝いなんか務まるわけがありません」 「それはやってみなきゃわからないだろ」 「というか、生徒会は見目がいい人がやるべきです」 「そんな規定はないよ。俺が悠馬に手伝ってほしいと思ってるんだ、いいだろ?」 友也はその顔に微笑みを貼りつけて言った。それを見ていた副会長の津田は首をひねった。友也がやけに強引だったからだ。  そもそも悠馬本人にこの話を伝えていなかったというのも解せない話だった。従兄弟なのだからいくらでも連絡の取りようがあっただろうに。 「よくありません。俺は辞退させていただきます」 「なんで? 悠馬は俺のことが好きなんだろ、ならそばにいたいって思わないのか」 「俺は好きな人のことは遠くから見守りたいんです。失礼します」 悠馬はふかぶかと一礼し、友也の制止を振りきってステージを降りようと歩みを進めた。  するとステージから下へ続く階段のところで、悠馬の頭に向かって何かが投げられた。コツンとぶつかったそれは紙切れを丸めたもので、悠馬はいぶかしげにそれを拾った。  広げてみると均整の取れた美しい字で、幼稚な一言が書かれていた。 『ばーか』 悠馬は弾かれたように顔をあげ、群衆の中から氷雨を探した。三年A組、氏名の順で最後尾のあたりだろうと見当をつけてみれば彼はすぐに見つかったが、わざとらしく目をそらされた。

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